第190話:インファネス・ロペニア~氷の独り暮らし~

「ああ、死ぬかも知れないな」

 氷の山に作られた小屋の中で呟く。

 その呟きは吹雪によって誰にも聞こえないうちに消える。

 例え吹雪がなくとも、その呟きを受けとる相手はいないのだが。

 ……何でこんなことになったんだっけ。


 事の起こりは冬季の始まりだったか。

 それまでの集団生活になんとなく飽きて、「独り暮らしする」と周囲に宣言したのがまずかった。

 あれよあれよと準備が進み、気付いたら誰が手配したのかこんな氷の山の山頂に小屋を用意されて送り出されていた。

 誰かが冗談で言っただけのことを誰かが真に受けて、いつの間にか俺がこういう場所で暮らしたいと言ったことになっていて、役所にも届けられていた。

 決して嫌われていたからこんなことになったわけではないと信じたい。

 一応、家の保温性は高いしトランスポーターは結構な大きさのものが設置されているから生活に苦労はしない。

 生活には苦労はしないが、天気がいいからちょっと散歩でもとか思って外に出てみたのが間違いだった。

 今は吹雪いていて、なんとか掘れた雪洞に避難している。

 このままでは死にかねない。

 家は山頂にあるのだから登れば自宅には帰れるのだが、吹雪が止むのがいつになるのかわからない。

 そもそもここでの生活を始めて、晴れていたのすら今日が初めてだったので暫く晴れない可能性もある。

 本当にうかつだったとしか言いようがない。

 防寒はバッチリしてきたのだが、流石にだいぶ寒くなってきた。

 早く家に戻って温かいスープで胃を満たしたい。

 こんなことならば、あの集団生活に不満など漏らすのではなかった、いや、待遇に惹かれてあんな職場での集団生活など受け入れるのでなかった。

 無職で良かったのだ。

 ああ、寒さで考えが良くない方向へ向かっていく。

 なんか、眠くなってきたな、

 意識が落ち――。



 目を覚ました、もしかしてまた転生したのかもしれないと体を見ても、覚えがある体のままだ。

 いる場所も卵の中ではなく、暖かい布団、布団だこれは。

 それも、馴染みある俺の布団。

 もしかして、夢だったのだろうか。

 窓の外を見ると吹雪いている。

 雪山の山頂だ。

 雪山への引っ越し自体が夢だったら良かったのだが。

 晴れてたから散歩にってところが夢だったんだな、流石に晴れてたからと言ってこんな雪山へ散歩になんて出ない、うん、出ない。

「お、起きたか」

 そんなことを考えていたら突然声をかけられた。

「誰!?」

「おいおい、そんなに驚くなよ、助けてやったんだからさ。いやぁ、山頂にこんな立派な山小屋があってよかったなぁ」

 山小屋だと思われているんだろう、そう思うのは無理はない。

「いや、これは俺の家なんだが」

「はぁ? もしかしてあんたは自宅の庭で遭難していたのか? もしかして寒いの平気な人?」

「いや、助かったよ。いろいろあってね、うっかり死ぬところだったんだ」

「そもそもなんであんたはこんなところに住んでいるんだ?」

「まぁ、それもいろいろあってな、まぁ、暖かいスープでも飲みながらゆっくり話そう」

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