第125話:バーム〜世界を股にかけた商人〜

 俺はかつて、いくつかの世界を滅ぼしかけたことがある。

 先に断っておくが俺は魔王のような力のある存在でもないし、自分で言うのもなんだが悪いやつでもない。

 ただ、異世界を渡る力があるだけのまぁまぁ平凡な存在だ。

 異世界を渡る力がある時点で平凡ではない?それ以外は普通なんだよ、多少欲が強いかもしれないか?

 その力も一度死んでこの世界に来たことにより失ってしまったのだが、この世界ではあまり平凡な生活は送れていない。

 むしろ、その力を失ったことで、騒動から逃げられなくなったというのが正しい表現か。

 俺はその異世界を渡る力で世界と世界の間で物の売り買いをして金を稼いでいたんだ。

 金を稼いでいたと言っても、世界によって価値のあるものは違うから、それぞれの世界で安いものを買って、高く売れる他の世界で売り、生まれ育った世界で高く売れる物に変えて溜め込んでいただけなんだが、まぁ稼げる稼げる。

 普通に働くのが馬鹿らしくなるぐらいに稼げた。

 最初に言った世界を滅ぼしかけたというのも、その商売でやり過ぎたというものだ。

 要因は世界によって様々だが、その世界ではクズ鉱石だと思われていた鉱石が他の世界では潤沢に魔力を含んだ魔石として高値で売れたので流していたら、クズ鉱石として扱っていた世界の魔力が不足して生物が衰弱したり、植物を流してみたらその世界にはない病原菌が世界中に広まったり、マジックアイテムが世界中に広まった後から安全装置がその世界では作動しないことがわかったりと、まぁ色々やらかしたりしたものだ。

 それらの世界がどうなったかって?

 俺は知らんよ?滅びたりパニックが起きる前に逃げ出してその世界には二度と近寄らなかったからね。

 まぁ、そのせいで今大変なことになっているわけなんだけど、案外、俺が原因で世界がやばいってことに気づいてた人が結構な数いたらしく、それらの人が煽動して俺を探し回っているというわけだ。

 異世界人だなんて知らない人たち相手に商売していたわけだから、絶対にバレないと思ってたんだけど、案外聡い人はいるようで、どういう経緯でかはわからないが、他の被害に遭った世界と情報を共有し、俺の存在に気づいたらしい。

 しかも、念写を使って俺を知っている人ほとんどの協力の元、殆どの年齢の風貌を図に起こされてしまっている。

 この世界での法は緩く、俺はこの世界の法では裁かれないが、逆に、俺に復讐をしても裁かれない。

 この世界自体は俺の敵ではないが俺の味方でもない。

 早い話が、生活するのは許されているが、俺を探しているやつらに見つかれば最高に惨たらしい方法で痛みを与え続けられそのうち死ぬ。最悪、延々と回復させられながら報復され続けるかもしれない。

 さすがにそれは嫌なので、逃げ続けているのだ。

 自殺も出来ればしたくない、この世界では死に損ねる可能性が非常に高いし、魔物の餌になりに行って、いたぶられるのも嫌だ。

 何より、まだ死ぬには早いと思う。

 そんなわけで、俺は今日も逃げ続けるのだ。

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