第121話:パック・モンモン〜キュウリ食べる?〜
俺は色々な国に旅行するのが趣味で、今は幽都という街に滞在しているのだが、この街の住人達からの俺を見る目が何だかおかしい。
確かに俺の外見はこの街に住む主な種である純人とは肌の色や顔の形が多少異なるが、それでも他の見た目が変わった人よりも俺の方が注目度が高いし、料理店では生の野菜を勧められたり、ウエイトレスの笑顔が少しばかりこわばっていたり、水のおかわりを頻繁に持ってきたりと不思議な行動を俺にだけする。
なんなんだこの街は、特に不快なことはされないが、こうも変なことが多いとどういうことなのか気になる。
しかし、知らない人に声をかけて聞くというのも中々にハードルが高い。
「俺の扱いがおかしい気がするのだがどういうことだ?」等と知らない人、それも俺を変な扱いしている人に聞くなどということは俺にはできない。
人々からの目は気になるが、この街の雰囲気自体は好きだ。
旅行で好きなことは、風景を見て、街を歩き、その土地の料理を食べ、人を見る。この街は特に風景が良い。
この世界では珍しく、高いビルが並んでいるし、どうやっているのか規格化された街路樹は鮮やかな葉をつけている。
川沿いの道には水害対策に盛られた土手とそこから対岸に向かって伸びた橋の形状も素晴らしい。
3角形を組み合わせた作りで、強度も高く見映えも美しいという素晴らしい橋だ。
橋の歩道を渡っていると、突然呼び止められた。
「おいあんた!見た感じ泳ぎが達者だろう!あれを見てくれ、助けてやってくれよ!」
「はぁ!?」
驚きつつも、指された川の方を見てみると流れが強い中に人が一人杭に掴まって流されかかっていた。
俺にはわからない言葉でなにかを叫んでいるようだったが、助けを求めているのは明白だった。
そして俺は、となりで頼んでくる男の勢いに流されて飛び込んだ。
ドボーンと音を立てて水に落ち、杭の位置を見てそちらに泳ごうとして気づく
俺、泳いだことねーよ!
水中での呼吸はできても泳ぎ方なんかわからない。
水の勢いが強く、うまく身動きがとれずにそのまま流されてしまった。
大分下流まで来て、ようやく流れが緩やかになった場所でなんとか陸に上がることができ、上がると先程橋の上で声をかけてきた男と、溺れていたように見えた男がやってきた。
「すまねぇ!まさか泳げないとは思わなかったんだ、無事でよかった」
「お前、溺れてたんじゃねぇのか」
「あんたが泳いでいるところが見たくて、演技をしたんだ」
聞けば俺の姿はこの街に住んでいる人々が知っている【河童】という妖怪にそっくりらしい。
その河童は泳ぎがうまいらしいが、想像上の存在らしくどう泳ぐのか見てみたかったらしい。
流される俺を見て「河童の川流れを実際に見ることになるとは思わなかった」と言っていた。
そのまま二人から詳しいことを聞き、お詫びとして観光の案内をしてもらうことにしたのだが、やはり【キュウリ】という野菜を勧められた。
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