第122話:ナカトキ_ソー〜無謀建築の城〜

 慎重に踏み板を選んで歩く。

 この床は何年前に張られたのかはわからないが、腐っている可能性もある。

 いや、確かこれは床ではないか、下の部屋の天井板がむき出しになっているんだったか。

 下が無用の空洞であるよりも踏み抜きたくない。

 床も壁も布や木の板のつぎはぎで、なにを通しているのかもわからないパイプが壁や天井を這い回る。

 ここはこの世界の名所のひとつ【ボルボンバルク大樹は名のみ残す

 その名の通り、かつては空高く伸びた大樹がこの場所にあり、その下に街があった。

 その街が、どういう訳かどんどん上に向けて広がり、無茶苦茶な拡張を繰り返したらしい。

 その結果、かつてあった大樹は街に覆い隠され、街は拡張を続けている。

 そのため、今では大樹がどの辺りにあるのかも、そもそも本当にあったのかもわからないという有り様だ。

 何年ほど前から街が拡張され始めたのかもわからないし、理由も記録に残っていない。

 ただ、昔はここに大樹がありその周りにこの街ができたのだということしか伝わっていないのだ。

 拡張は自由なので、今も新しい部屋を適当に落下しない程度の補強だけして増設されていたりする。

 俺もこの街に移り住んだときに自室を見晴らしが良い場所に増設したのだが、今は窓が隣室に繋がっている、もちろん他人の部屋だ。

 最近は見かけないが生きているのだろうか。

 お世辞にも住み心地が良いとは言えない環境だ。

 それならばなぜ、他の街に移住しないのか。

 もちろん理由がある。

 単純に、出ることができないのである。

 この街は誰も計画性というものを持たずに無茶苦茶な増設を繰り返しているうちに、外に繋がる道が塞がれる区画があって、俺が今住んでいる区画もそうやって脱出不可能になった、日課の散歩は運動目的だが、どこかに道が開けていないかどうか探すためのものでもある。

 ナビアプリでも使えれば楽なのだが、酷いことに、この街はナビアプリで使われている術式を阻害する磁場やら魔力の乱れやらが存在するらしく使えない。

 古い地図も拡張を繰り返した結果役に立たず、もはや更新されることもない。

 というか、最終更新日が数千年前だ。

 当時の地図ではこの場所はまだ空中だったりするし、全く使えない。

 今日も歩き回って道の形が変わっていないか確かめる。

 頻繁というほどでもないが、昨日まであったはずの道がなくなったり、なかったはずの道ができたりするし、日々の散歩は重要だ。

 今日は、新しい道を見つけた、新しい道と言ってもこれは、配管のスキマが通れるようになっているのか?

 たしか昨日まではもう一本太いパイプがあったと思うが、何があってそのパイプは消えたのだろう。

 テロン街のように道が勝手に組変わるわけではないので、誰かがはずしたのだろうが謎だ。

 もしかしたら誰かが入ってきた、もしくは出口を作ったのかもしれない。

 とりあえず、この隙間がいつ埋まるのかもわからないので、外に繋がってないか確かめるために先へ進んでみる。

 ぱっと見とても狭いが、俺の体も小さく難なく通ることができた。

 パイプの隙間ということは、元々ここにあったパイプが繋がっていた場所にこの道は繋がっているはずだが、どこへ繋がっているのだろう。

 パイプの道は何度も曲がり、上下し、どっちを向いているのか完全にわからなくなったが、やっとちゃんとした通路に出た。

 自室の近所に比べると広めの道で、飲食店が並んでいた。

 おお、これは良い道を見つけたものだ、この隙間には壁や床をしっかり張って、縦の移動をするところには梯子を掛けて、使っている通路感を出しておかなければ、塞がれてしまうかもしれないな。

 それに、この類いの大通りがある道はゲートに繋がっている可能性が高い、久々に外に出られるかもしれないな。

 外に出られるならば引っ越しても良いかもしれない。

 今度はしばらく外側に増設されないように、伸ばせるだけ空中に通路を伸ばして、空中の離れ小部屋にしよう。

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