第113話:カイ・サクレⅡ〜魔物蔓延る遺跡〜

 今日やって来た遺跡は、地下迷宮だ。

 なぜ、こんなものを掘ったのかは不明だが、この地下迷宮には価値のあるアイテムがまだたくさん眠っているという噂だ。

 地下迷宮とは言っても、魔術走査で地図の生成ができるのだから迷う要素もない。

 それでも、価値のあるものが持ち出されていないのには訳がある。

 この遺跡は、魔物が転生してくるポイントになっているのだ。

 一説によれば、ここに気づかれた文明はある日突然魔物が転生してくるようになって、放棄されたらしい。

 放棄されて長い時間がたった今、遺跡の中は魔物の巣という状態であり、戦闘力の低い探索者では潜れない遺跡だ。

 そこで、俺は魔物ハンターを雇った。

「というわけで、よろしくな」

「ああ、よろしく」

 こいつが俺の雇った魔物ハンターのヒュード=バンだ、戦闘能力は知能の低い地竜を一人で狩ることができる程度らしいが、魔物と戦った経験のない俺にはどれ程のものかはわからない。

 今回潜る遺跡にいる魔物程度ならばなんの問題もないようだから、いいんだけども。


「よし、準備オーケーだ」

「その装備はなんに使うんだ?」

 俺が背中に背負った機械を指して言う。

「ああ、これか。この遺跡の地図を作るための走査機だよ。テロン街は知ってるだろ?」

 ああ、と頷く。

「ここはあそこほどじゃないが歪んだ迷宮でね、大容量のこいつが必要になるんだよ」

 本当はもう少し小さくて携帯端末デバイスと接続が簡単なやつがあるが、資金の関係でそれは用意できなかった。

「重そうだが、軽量化の魔法とかかけないのか?」

「あー、軽量化しておいた方がいいか」

「ああ、やってやるからちょっと貸せ」

「いいよ、自分でやるから」

「俺が受けた依頼は、地下迷宮に潜る間の危機を排除することだ、護衛対象が重い荷物を背負った状態で、動きが鈍いとやりづらい」

「襲いかかってくる魔物から守って欲しいって依頼じゃなかったか?これは魔物から守るには入らないから、自分でやる」

「「…………」」

 お互い携帯端末デバイスを出し、俺は出した依頼の文章を、彼は受けた依頼の文章を出す。

 文面は二つとも同じで、「カイ・サクレが地下迷宮に潜っている間、魔物等からの護衛を依頼したい」と書かれていた。

「魔物等って書かれているな」

「俺は魔物含む他の武力から守って欲しいという意味で書いた」

「俺は魔物含む、あらゆる危機から守れと解釈した」

「あー、そうなるか。じゃあいいや、そっちに任せるよ。ただし、これの分報酬を増やせって言ってもダメだからな」

「かまわんよ、むしろ効率が上がれば報酬も増えるだろう?」

 報酬の量は収穫に応じて増えるという契約だ、効率が上がれば確かに報酬は増えるか。なるほどな。

「それに、俺はこの魔法を回数で買ったりしていない。回数無制限のを買っている」

「なっまさかお前、結構金持ちなんじゃ」

「まあまあだな、この魔法は使用頻度が高いから無制限にしてあるだけで、単発でしか使わないような魔法は回数で買うさ」

 俺もお金に余裕があるときは無制限で買おう、回数買いの方が安いからとかもう言わない。

 この余裕がかっこいい。


 このあと、迷宮に入ってしばらくした時点で、軽量化魔法が魔術走査に影響し、原因に思い当たるまでひたすら迷った。

 もっとお金をためていいやつ買おう。

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