第112話:ノルンⅢ〜私は研究対象?〜

「トーカさんー、クッキーはまだできないんですかぁ?」

 この研究所に来てからもう20日も経ったのにまだ最初に「あるよ」って言っていたクッキーがまだない。

「トーカさんってばー」

「あーもう、さっきからうるさい!今忙しいの、見てわからない?」

 トーカさんのキッと目付きが鋭くなり、私は口を開けなくなる。

【縛り】だ

 どうやら、トーカさんは幽霊に命令をすることができるらしく、私は度々こうやって黙らされる。

 喋れなくされただけなので、邪魔にならないようにふわふわと移動する。

 少し離れれば喋れるようになるし。

「でもー、くれるって約束したのに、なんでないんですかぁ?」

「さっきのは黙っててってことだったんだけど?」

 トーカさんの縛りも離れたところから話しかければ恐れるに足らず。

「そもそも、何がそんなに忙しいんです?ここは死を研究する研究所で、死んでいるサンプルが私しかいなくて私の研究も進んでないのに」

「今、あんたの言っていた場所にここのメンバーが調査に行ってるの、私はその間ここに残って色々な雑務をやってるのよ、そして、私が残ってる理由は、あんたをここに留めておかなければならないからよ、わかりなさい」

「わかりませんしー、私としてはクッキーが食べられればどーでも良いことなんですけど」

 そもそも、クッキーが食べたくてついてきたんだし。

「あー、クッキーが食べられないなら出てっちゃおうかなぁ」

「そんなことをしたら、あんたの自我を消してここに縛り付ける。

 そうなっても研究はできるってことを覚えておきなさい」

 あ、だめだ。

 縛られてる訳じゃないけど動けない。

「わかったら黙ってなさい、あと、クッキーを用意できるのはラッカさんだけだから、ラッカさんが帰ってきたら自分で頼みなさい」

 ラッカさんって、まだ私は会ったことないんですよね。

「ラッカさんって」どんな人なんですか?って聞こうとしたが睨まれた。

 聞くなってことでしょわかってますよ。

 しかし、暇ですねぇ。

 トーカさんは忙しくて話しかけられないし、他には誰かいないかなぁ。

「ただいま」

 誰か帰ってきた。

「今帰ってきたのがラッカさん、飛び出すんじゃないよって聞いてないか」

 そう、私はトーカさんの制止なんて聞いてない。

 壁をすり抜け、今帰ってきたばかりのラッカさんとやらの前に飛び出す。

「ギェ」

 首を捕まれた。

 ぐるじい。

「なぜ、幽霊がここにいる?消えろ」

「そいつはこの世界では貴重なサンプルだから消さないで」

「トーカさん…………」

「そうか」

 手を離してくれた、話せばわかるタイプみたい。

「そうだ!ラッカさんはクッキー作ってくれるんですよね!」

「あんた、メンタル強いわね」

「クッキー?これのことか」

「あんた、それ食べたら消えるわよ」

「え?」

 ぱくり

「ちょっと、吐きなさい!消えるわよ!」

「ええええ!消えたくないです!」

「安心しろ、それは期限切れで効果はない」

「え、ああ、よかったこれに消えられたら私が始末書でしたよ」

 どうやら、これを食べても私は消えないらしい。

 よかった。ポリポリ。

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