第110話:ヤークラーク〜意識共有体脳内会議〜

(この世界に現在存在する私の分離体は24体、この世界に来た数の三割ほどか)

(なぜこんなに損耗が激しいのだろうか、初期個体がこの世界に来てからはまだ、四年ほどしかたっていないはずだが)

(逆に言えば、この世界での個体の損失はあの世界の三倍になってしまうのでは?)

(それはあの世界が現在戦争中であることに起因するのではないだろうか)

 共有意識ネットワークに疑問を投げ込むと、他の分離体からの返事が返ってくる。

 記憶は共有しているものの、分離体毎の経験はそれぞれの考え方に影響を与えており、すべての情報を共有している上で新たなアイデアを出す議論が可能になっている。

(ではこの世界で分離体損失は何が原因で起きているかの統計を確認しよう)

 ここで、個々が共有記憶データベースにアクセスする。

(損失個体67体のうち5体は魔物ハンターギルドに所属、遭遇した高レベルの魔物によって補食されている)

(損失個体の67体のうち12体はそれらの所持していたアイテムの回収を目的として行動中に前5体を補食した魔物と同個体により補食されている)

(初期個体以下26体は27体目がこの世界へ来る前に損失しており、共有記憶データベースの断絶があり、観測不能)

(該当個体の思考パターンから推測すると危険地帯の情報獲得を損耗覚悟で行った結果、分離体を生成できず全個体損失したと推測される)

(その可能性は非常に高い)

(私も同感である)

(なぜ分離体を生成できないのだ?)

(この世界の理だ、共有記憶より読み取れ)

(理解、新規生命体はこの世界に生まれることはない、分離体は新規生命体と判断されるのだな)

(そうだ、この世界で分離体を増やすにはあの世界での損失個体がこの世界に来るしかない)

(では出来る限り損失は押さえる方向で活動するべきだ)

(最低維持数を決めておき、その個体数を切るまでは損失を容認するのはどうだろうか)

(異議なし)

(異議なし)

(では、最低維持数だが、30体ではどうだろう?)

(異議あり、現状の個体数よりも多い値を設定するのは問題では?)

(30体に賛成、現状の最終個体の持ち込んだあちらの世界の状況を鑑みるに個体数はすぐに増える。

 30体いれば、過去の同時期最大損失数よりも多く、現状想定できる事象のほとんどに対応可能となる)

(異議を取り下げる)

(他に意見はないか?それならば最低維持数は30体に決定する)

(31体目が来るまで、各自危険行動は控え、自己保存に勤めるよう)

(了解)

(了解)

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