第109話:カイマ_オウル〜催眠術師のおしごと〜
私の仕事は催眠術師だ。
催眠術師なのなのだが、あまり仕事があるわけでもない。
元の世界では兵士の士気を高めるために国に雇われていたのだけども、この世界には兵士がいないし、似たような存在の魔物ハンターも、自分の意思で魔物を狩に行っているため、催眠術で士気を高める必要もない。
一般の催眠術師がやってたような精神病のカウンセリングみたいなことも、この世界では案外需要がない。
全員死んでると言うから心に傷を負っているのかと思いきや、前世のしがらみから解放されて殆どの連中が晴れ晴れとした顔で生活している。
引きずっている奴も催眠術に頼ろうとはしない。
この世界で食いっぱぐれることはないが、仕事がなくて暇なのは問題だ。
一応、催眠術で色んな依頼に答える店を出しているのだが、暇潰しにバイトに出るぐらい暇だ。
バイト先でも営業活動の一環として、ネームタグに催眠術師という職業も一緒に表示したり、バイト仲間に露骨になりがちだが、催眠術師アピールをしたりする。
しかし、依頼はまったく来ない。
ある日、バイト先の飲み会に誘われた。
飲み会の流れで皆が特技を披露するという流れになった。
これは、催眠術を披露するチャンスではないだろうか。
ひとつ前の人の人間ポンプという一発芸が終わり、私の番が来た。
催眠術をかけます!と宣言して、まずは飲み会参加者をトランス状態にするために精神誘導をする、言葉巧みに、意識を沈めて、起きながらにして眠っている状態に誘導する。
うまく、トランス状態に誘導することに成功した。こうなってしまえば、あとは好きに命令することもできる。
さて、どんな命令をしてみようか。
定番の動物になるやつは、その動物を本人が知らないとだめだし、世界が違うと存在する動物が変わってくるため、あまり面白くない。
うーん、視界反転、視界反転とか良いかもしれない。
文字通り見ている景色が上下逆さまになったように感じる催眠だ。
「では、私が手を叩くとあなた達の視界は上下逆さまになります」パンッ
私が手を叩くと、座っていた彼らはバランスを崩し、転がり始めた。
見ている風景が突然反転したのだ、立つことはもちろん、普通に座っているのもきつい。
「はい、もとに戻ります」パンッ
一度ひっくり返すと、戻してもすぐには普通の感覚にはもどらない。
しまった、全員にかけるんじゃなかった。
雰囲気おかしな感じになってしまったし、これはまずい。
最後の手段だ。
「この飲み会に私は参加しなかったし、あなたたちは催眠術をかけられたということも忘れる、ちょうど人間ポンプが終わったところ、鈴の音で催眠が解ける!」
という、催眠をかけて少ししたら鈴の音がなる仕組みを作って帰る。
後日、なぜ飲み会に参加しなかったのかと聞かれたので、とっさの催眠術は成功したのだ。
よかったよかった。
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