第104話:フルーノルク〜翼を持つもの持たぬもの〜

 空を見上げるのが好きだ。

 手を伸ばしても届かない場所を眺めて、想像する。

 あの場所へ行きたい、空の上から大地を見下ろしたい、そして、私と同じように空を見上げる少女に微笑むのだ。

 そういう空想が私は好きだ。

 ったんだけどなぁ。

 私は今、空の上に来ている。

 特に下を見下ろして空を見上げる少女に微笑みかけたりとかはしていない。

 そもそも、思っていたのと違うような気もする。

 理想を言えば、ふわふわと、からだ1つで飛びたかった。

 今の私は、腰に機械を取り付け、両脇に付いたローターの力でぶぉんぶぉん鳴らしながら飛んでる。

 隣には翼を持つ女の子。

 何でこんなことになったんだっけ?




 私がこの世界に転生してきて、この世界にはあらゆる世界の凄い技術が集まっていると聞いたとき、まず思い浮かんだのは、人が空を飛ぶ方法。

 やっぱり空を飛びたかった。

 案内のひとに聞いたら、携帯端末デバイスでという機械で調べてくれて、どこへ行けばいいのか教えてくれた。

 でも私は、すぐにはその場所へ行かず、しばらくは新生活の基盤を作ることにした。

 近所への挨拶周りや、近所にあるお店を調べたり、私より先に死んだ親に会いに行ったりと、忙しい日が続いた。

 そんな中でも、空をよく見上げて、もとの世界とは違う雰囲気の空を飛ぶ空想はまだやめていない。

 あの日もそうやって、忙しさの合間に空を見上げていたんだ。

 でも、いつもとは違った。

 空から、落ちてくるものがあった。

「ヌッセユ!メロユンナ!」

「えっ、何!?」

 何事かわからないことを叫びながら翼を持つ彼女は私のところに落ちてきた。

 持っていた守護のアミュレットのお陰で私は怪我をすることはなかったが、彼女は飛ぼうとしても飛べないようだった。

 放っておくわけにも行かないんだけど、やはり言葉がわからない。

 ターミナルで借りた翻訳機は共通語とうちの言葉専用で、彼女の言葉は共通語ではないらしく、翻訳できなかった。

「ピペルト!タピタ!」

 うーん、なにか主張しているのはわかるけど、何を言いたいのかはわからない。

 そうだ、携帯端末デバイスで翻訳アプリとかDLしてみよう。

 うーん、どこの世界の言葉かわからないと、やたらと高い全言語対応の翻訳アプリをDLしなければならないのか。

 そうだ、ターミナルの人は全部の言葉がわかるって言ってた気がする、一緒に行ってみよう。


「この子はそうですね、マアカムという世界の、鳥人族です」

「あ、ありがとうございます」

 すこい、すぐにわかった。

「その子、怪我をして飛べないの?」

 案内役の人は続けて聞いてくる。

「そうなんですよ、さっき、空から落ちてきて」

「空から落ちてきたんですか?その子は飛ぶのがヘタなのかもしれませんね、以前紹介した飛行技術研究館へ行ってみるといいかもしれませんね。

 あそこには鳥人の職員もいたはずですから、飛び方を教えてもらえるでしょう」

「覚えてるんですか?」

「あたりまえでしょう」

 転生してきた人全員覚えてるらしい。

 凄い人だなぁ。

 それはさておき、飛行技術研究館ってところに行ってみよう。

「行こー!」

 やっと翻訳ができて意思の疎通に成功した。

「その前にーご飯食べよ!」

 お腹が空いてるらしい。

 お昼も近かったので、ターミナル近くの飲食店に入る。

 まだ混む時間ではないのか、がらがらだ。

「それで、なんで空から落ちてきたの?」

 なんだかんだで聞いてなかったことを聞いてみる。

「お腹が空いてー、ご飯食べよーって降りてきたら強い風に吹き飛ばされちゃってねー、ふらふらーっと落ちちゃった、あなたが受け止めてくれなかったら危なかったかもー」

 なるほど、あのとき言ってたのは「お腹すいた!」と言っていたらしい。

 言葉がわかっていても困惑してたでしょうね。


 ご飯も食べたことだし、飛行技術研究館にやって来ました。

「ここに鳥人の職員さんがいるときいたのですが」

 鳥人の女の子が落ちた理由は空腹のせいだったが、普通はそれぐらいで落ちるものではないらしいし、飛び方を教えてもらった方がいいだろう。

 私も一緒に飛べるのならば飛びたい。

 受付で聞くと、すぐに鳥人のお姉さんがやってきた。

「はーい、ってあら、あんた、どうしたの?」

 鳥人の女の子は知り合いのようだ。

「おっこちて、送ってもらった!」

 なんと、この子はこの飛行技術研究館の子らしい。

「ありがとうね、この子よく落っこちるのよ、まだ子供だからね」

 この世界で子供って珍しい気がするなぁ。

「そうだ、他にも用事があって、私も空が飛びたいんです、ここにこれば飛ぶことができるだろうって教えてもらって」

「飛べるわよ」

「ほんとですか!?」

「ええ、今からちょっと飛んでいく?」

「ぜひ!」

 そして、冒頭へ至るわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る