第103話:ニフ・ナップ〜全世の図書館〜
静かだ、何の音もしない。
微かな空気の振動による耳鳴りもなく、完全な無音。
この場所は【
そもそも、この図書館の蔵書というものは入館時に、記憶のスキャンすることによって生成されているのだ。
具体的にはもっと複雑に処理しているらしいのだが、利用者の記憶にある【本の記憶】というものを読み出し、曖昧なものは多数の人の記憶を合わせていき、徐々に正確な本にしていくというものだ。
つまり、その本を読んだことのある人が一人もこの図書館を訪れていない場合、その本は存在しないし、不正確な記憶しか持たない人が少数しか来ていない場合も不正確な本になる。
それでも、この図書館はこの世界で最大の蔵書数を誇る。
無限に等しい蔵書は大量の本棚を埋め、上へ上へと層を重ねるように伸び続け、塔になっている。
そもそも、図書館を利用する人達はもとの世界でも本を読む習慣があり、この図書館に大量の蔵書をもたらしている。
稀に、利用者が頭の中で考えていた物語が本になって並んでたりもする。
一度自分の考えていたものが本になって置いてあって、叫んだりしてしまったことがあるが、この図書館は音を完全に消しているため、周りに迷惑をかけたり注目されたりしなくてすんだ。
まぁ、この世界では
今日見かけた他の人は暗めの雰囲気な長髪の男性一人だけだ。
さて、今日はどんな本を探そうか。
私は物語を多く読んでいるのだけど、この図書館にある物語は私の持っている知識では楽しめない物も多い。
今日は物語ではなく、そういう異世界の知識系の本を読もうか。
しかし、知識系の本はなぁ、前提知識とかも必要だったりしてすごい量を読まなければならなくなったりして、大変なんだよなぁ。
うーん、今日は物語を読もう。私にもわかるやつ。
そういう物語の棚は2層とかの割と低い層にあるので助かる。
そういえば、4層以上に昇ったことがないんだけど、その上にはどんな本がどれだけあるんだろう。
たまには、物語の中だけではなく、実際に冒険してみるというのも悪くないだろう。
昇降機を使って昇っていくのでは冒険という感じがしない、この図書館はなぜか階段や梯子、あとは中心の吹き抜けに垂らされているロープを昇ることで階層を移動することもでき、昇降機を利用しない場合そのどれかを利用することにする。
噂では本棚で隠された扉があるとか言われていて、図書館というよりもダンジョンと言った方がしっくりくる。
物語でも図書館のようなダンジョンはよく出てくる。
よし、今から私は冒険者だ!
ダンジョンの奥深くまで潜り、お宝を探しに行こう!
階段を探して歩いて、6層まで来た。
この階層の本は、うーん、よくわからないけど宗教?そういうタイプの本が多いみたい、あまり面白そうじゃないなぁ。
梯子を見つけて、次は7層へ。
どんどん昇って今は17層、だんだん疲れてきた、普段あんまり運動する方じゃないし、無理したなぁ。
この辺りに並んでいる本も、情報不足なのかタイトルの文字まで曖昧なものが多くなってきた、もしかして上層に行くほどこういう本が多くなるのかな?
少し階段に座って休む。
座ってみて気づいたけど、何か揺れているような?
音は、図書館の性質のせいで聞こえない。
この揺れは、何か大きいものが動いているような、そう表現される揺れかた、だと思う。実際にこんな経験をするのは初めてだし、わからない。
揺れというよりも振動に近いかも?
残念だけどどこから振動が伝わってきているのかはわからない。
うーん、何かいるのかな?
図書館ダンジョンだし、ボスモンスターとかいたりして?
気になった私は、少しその辺をうろうろしてみることにした。
うわー!いた!ボスモンスター!でかいトカゲ!ドラゴンっていうのかな?翼はなくて、床を這って追いかけてくる。
大声で叫びながら逃げているが声にはなっていない。
他に人がいるわけでもないから迷惑になったりはしないのに、声が出てない!
声で威嚇とか考えたけど、できない!できないことばかりぱっと思いつく。
できるだけ狭い本棚の間を選んで逃げる。あの巨体では通れないはず、地形を活かして逃げるのは冒険ものでは王道だし、きっとなんとかなる。
というか、そもそもなんであんな怪物が図書館にいるんだろう。
この図書館って本を溜めること以外にも目的があったりするのかな?
あの怪物の向こうには禁書とか呼ばれている危険な本があったり?
気になる。
気になるけど、やっぱり危ないと思う。仕方ないし、疲れたし、帰ろうかな。
この階層の昇降機ってどこら辺にあるんだろう。
携帯端末でこの図書館の地図を出して探してみる。
えーと、17層の昇降機乗り場は、この道をこう行って、あっちに曲がって、あっ。
途中にさっきの怪物がいる。
迂回路は、ないみたい。
どうすればいいんだろう。
他の降り方を考える。
梯子はどこにあるんだろうか、たまに位置が変わってしまうからか、地図には載っていない、階段へ行く途中にもさっきの怪物がいる場所を通らなければならない。
ロープは論外。
もしかしてこれは、ピンチというやつでは?
よし、結構悩んだけど、あの怪物に気づかれないようにこっそりと後ろを通り抜けよう。
都合がいいことに音は聞こえないんだ。
視界にさえ入らなければ、大丈夫、なはず。
怪物は中央吹き抜け横の通路に鎮座していて、吹き抜けとは反対側を向いている、危ないけど、吹き抜け側を通り抜けよう、少し隙間があるし、触らずに通り抜けられるはず。
こっそり、こっそり、音はしないとわかっていても、音が立たないように歩いてしまう。
怪物のところに差し掛かり、手すりに体を押さえつけるようにして怪物に触れてしまわないように歩く、大丈夫、気づかれていない。
もう少しで、抜けられる。
というところで、怪物がこっちを向いた。
ヤバい!と驚いて後ろに飛び退ってしまって気づく、後ろは吹き抜け、体は手すりを乗り越えている。17階層分300クロン程の高さ。
これは、死んだんじゃないかな?
そんな風に、死を覚悟して目をつぶった私はいつまでたっても落下感が訪れないことを不思議に思って目を開けてみると、怪物の口から舌が伸びてきていて、私を捕えていた。
落下死はしなかったけど、これは食べられてしまうのでは?
そんな危惧をよそに、怪物はゆっくりと私を床の上に降ろした。
暫く呆然としていた私だったが、怪物が実は図書館にとても古い時代から存在している、音を食べる龍だということを、その怪物自身から教えてもらった。
音を食べる怪物自身は自由に音を出すことができ、というか、見た目に似合わない声でしゃべって教えてくれた。
そうして、私の第一回図書館ダンジョン探検は終わったのだった。
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