第93話:メグラ・ベークスⅡ〜人なのか猿の獣人なのか〜

 僕が彼女と普段一緒に買い物に出掛けたりするような仲になって数季、未だに彼女をうっかり犬扱いしてしまうことはあるが、最近では逆に彼女から猿扱いをされることがある。

 別に僕は彼女が犬らしいことをするように、猿らしいことをしていることはない、そもそも、彼女は犬の獣の人だが、僕は純粋な人間だ。

「そもそも、純粋な人間ってなに?」

 猿の獣の人扱いされた時に、僕は純粋な人間だから猿ではないよ、と返したらこう返された。

「そりゃあ、獣の要素を持ってなくて、」

「獣の要素ってなに?」

「例えば、他の動物が持っているような」

「こういう耳だったり?」

 彼女は自分の犬耳をつまんで言う。

「そうそう、でも僕の耳は人の耳だ」

「その耳、猿とかもそんな耳だけど?」

「僕には尻尾がないし毛皮もない」

「尻尾も毛皮持たないけど、耳だけ獣って人とかも結構いるよ?」

 どうあがいても、僕を猿の獣の人ということにしたいらしい。

 そうしたい気持ちはわからなくもない、僕も以前はそうだったように、純粋な人間という奴は、どういうわけか、獣の人や純粋な人間でない人々を亜人と呼び、避ける傾向にある。

 これは元いた世界に亜人がいてもいなくても、大抵亜人に対しての彼らの態度は良くないことが多い。

 理由は元の世界での生活文化の違いだったりからお互いに同じ暮らしはできないと別々に暮らしていたり、宗教の観点からお互いを認めず敵対していたり、元の世界に亜人がいなかった人たちは、始めて見る異形の人々に尻込みしていたりするのだ。

 しかし、この世界に来てしまえば、同じ世界の中での文化の違いなど些細なことであるし、今までの常識の通じない世界なのだから、早々に折れて普通に接するようになればよいと最近では思うようになったのだけれども、未だにこの世界では亜人と純粋な人間の溝はまだまだ深い。

 そんな背景があり、彼女は僕を純粋な人ではなく、猿の獣の人であるということにしたいらしい。

 亜人の人たちから見ても純粋な人間は排他的だという認識を持たれて避けられていたりするしね。

 僕も、彼女と喧嘩するぐらいならば猿の獣の人と認めてしまった方が楽なのだろうが、認めるわけにもいかない理由がある。

 そうだ、これを言えば彼女もこれ以上反論してくるまい。

「僕のいた世界ではね、犬と猿と言うのはあまり仲の良いものではなかったんだ、僕が猿の獣の人だったとしたら、君と仲良くすることはできないんだよ」

 ついでに、人と犬の仲はよかったことを付け加えておく。

「あー、メグラさんってよくよく考えたらあんまり猿って感じしないですね、猿の人ってもっと、ずる賢かったり、話してるだけでも駆け引きとか持ちかけてきてあんまり好きになれないような?その点、メグラさんは思ったことはすぐに口に出すし?全然猿って感じじゃなかったですね」

 清々しいほどに自分の欲求に対して素直だ、ここまで好かれているということに、やはり、嬉しくなる。

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