第90話:カロック-メリス〜ひとりぼっち孤島〜

 ここは、どこなんだろうか。

 ある日突然、目の前が真っ白になったと思ったら、子供の姿でこの島にいた。

 正確にはこの島の中心で卵の中に入っていた。

 見たことのない動物がいるし、空に浮かぶ太陽が夜になっても水平線に沈まないし、そもそも水平線がないし、海の果ては霞んで見えないぐらい先にあるし、この場所が異常な場所だというのはわかる。

 サバイバル生活というものに馴染みはなかったが、俺がこの島に来た場所に結構な頻度で卵に入った食べ物が現れ、飲み水も湧いているところがすぐに見つかったので食べるものに困ることはなかった。

 卵から出てくる食べ物は果物ばかりだったから、肉を得るのには少し苦労したが、加工しやすい石が島にある山で見つかってからは、それを武器に加工し、おとなしい動物を狩れるようになった。

 雨風を凌げそうな洞窟のようなものはなかったが、大きな葉っぱや木の枝を組み合わせただけの簡単な小屋を作ってしばらく過ごしながら、これからどうしようかと考えて、とりあえずの予定として、この島で暮らせるうちは暮らして、一応船も作って脱出の用意だけはしておく、という方針で生活している。


 そんなこんなでゆったりと暮らしてもう3074日目だ。

 毎日毎日、木に印を刻んできたが、そろそろ 刻む木もなくなってきた。

 そろそろ海に出るべきか、しかし、この島にいれば食べ物は豊富にあるし、貯める余裕があるわけでもない。

 そもそもこの異常な世界で見える範囲に陸地がない。

 霞んで見えなくなる距離がどれだけのものかわからないが、それなりの日数船で旅をすることになるだろうし、それならばこの島にずっと住んだ方がいい。

 住んだ方がいいのだが、如何せん、寂しい。

 決めた、この島から脱出する。

 もう10年ぐらい住んだ島だが、俺はこの島に別れを告げることを決めた。

 まずは、保存食の貯蓄からだ。

 一日に食べる量を減らして、狩った動物の肉はできるだけ干し肉に加工してとっておく。

 薄く裂いた肉を太陽の方に置いて、干しておく。

 木を加工して水を貯める樽を作ってみた、水路の終端にしばらく置いておくことにする。


 数日して、干し肉を見に行ってみると、無くなっており、代金だとばかりに獣の糞が転がっていた。

 持っていかれない工夫が必要だな。

 樽も歪んでいるらしく、水は溜まっていなかった。

 こちらも、樽を作る練習が必要みたいだ。

 まだまだ、この島を出るのに問題が山積みのようだ、まぁ、急ぐことでもない、時間はたっぷりあるし、そもそもまだ船も作っていないのだ、まだまだ、この島を出ることは出来ないようだ。

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