第68話:ペコ・ラインスⅣ~幽霊地帯~

「頭をぶつけた」

「はぁ?」

 高速走行中の車内でベディアが突然仰け反ったと思ったら、そんなことを言い出した。

 もちろん車内に物が飛び込んできた何てことは無いし、天井も低くはない。

「ああ、君には見えなかったのか。珍しいが幽体だ、奴等には壁もなにも関係ないのだが、我のような高位生命となると干渉し、衝突してしまう、厄介なものだ」

「幽体って所謂」

「うむ、人間達の俗な言葉で言えば幽霊、というやつだな」

 幽霊ってマジでいるのかよ…………。

「僕には全く見えたり感じたりできないんだけど、もしかしてこの辺には沢山いるものなの?」

「そうだな、この辺りには他の場所よりも多くの幽体が存在しているな、それぞれの格の差により、お互いがお互いを認識したりはできていないようだが。

 安心しろ、見たり感じたりできないのであればあちらから干渉してくることはないさ」

「そうは言っても、幽霊がそこにいるってこと自体が気持ち悪いっていうか」

「ふむ、探せばお前の幽体もその辺をうろついている可能性もあるのだぞ?世界によるようだが、死後、幽体が肉体を離れさ迷うことがある、その幽体が何らかの理由により消滅したりするたとこの世界に幽体として生まれ直すことがあるらしい」

「自分の幽霊とか、会いたくないなぁ」

「例え出会っても貴様には見えもせんし、触れもせんよ」

「そういう問題じゃなくて」

「ならばどういう問題なのだ、人間の感性はわからん」

 僕も竜種の感性が全くわからないよ。

 意識したら少し寒くなってきたような。

「こ、こんな幽霊地帯さっさと抜けよう、もっと加速してさ」

「そんなことするとまた、エンジンがいか

 れてしまうのではないか?」

「う゛、」

「こんな場所でエンジンが止まってしまったらさぞかし、長いことこの辺りに留まらねばならぬだろうなぁ」

「わかったよ、このスピードでいい。ただし、出来るだけ幽霊に当たらないように進んでくれ」

「そうは言ってもなぁ、すでに何十という幽体が、この車をすり抜けていって」

「あー聞きたくない聞きたくない!」

「ふっ、冗談だ」

 こいつ、僕をからかってやがる。

「お、同程度の格の幽体が集まってなにかやってるな。

 あっちは珍しいぞ、巨人族の幽体だ。

 おおー、あの幽体、周囲には同格の幽体等いないのに一人で芸をしているぞ?何をしているんだ?しかし見事なものだ」

「あー!もー!いちいちどんなやつがいるとか言わなくていいから!黙ってこの幽霊地帯を抜けて!」

「そうは言ってもなぁ、どうやらこの太陽から遠い場所が、幽体が転生してくる場所のようでこの先はずっとこの調子だぞ?

 今のうちに慣れておいた方が良いと思うのだが」

 目の前が真っ暗になった。


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