第66話:カナヤ-タルハ〜人の波に流されて〜

 何が起きたのか、爆発か、それとも津波か、サイルマの群れの波に飲まれたのかとも思ったが、どうにも違うらしい。

 俺が巻き込まれたのはサイルマの群れではなく人の波、それもものすごい数の人で、大地を揺らし、どこかを目指しているようだ。

「ちょ、止まってください!俺は関係ないんだ!」

 叫んでみてもだめだ、俺を直接押している位置にいる人はすごいすまなさそうな顔で「すまないが、俺たちは止まるわけにはいかないんだ、自分で頑張って流れから出てくれよ」とのこと、いやいや、足が地面から浮いてるんだけど?しかたない、いずれは止まるだろう。




 こいつら、止まらねぇ!

 おかしいだろ、もう3時間(日1つから日4つまでの時間、地球での3時間とは差がある)は歩いているぞ、なのに、一定のペースを崩さずに歩き続けている。

 なんなんだ、いったいこいつら何で歩いてるんだよ!

 いや、歩くことはおかしくないけど、何で歩き続けてるんだ!

 巻き込まれたときにすまなさそうな顔で謝ってくれた人ももう、無表情に歩き続けてもはや何の問いかけにも答えてくれない。

 だんだんこの状態にも慣れてきてすこし疲れが出たのか、うとうとしてしまう、どうせ身動きもとれないし、止まらないのだから寝てしまっても大丈夫だろう…………。




 起きた、どれだけの時間がたったのかわからないが、もう日は衰え、辺りは暗くなっていた。

 まだ歩みは止まっていないらしい。

 人と人の間に挟まって浮いているのだが、歩いている彼らを通して地面を踏む振動が伝わってくるのだが、時折、柔らかいものを踏んだ感触がある。

 下を注意深く見てみると、時折踏んでいた柔らかいものは人だった。

 おそらく、この行軍に付いてこられず、途中で倒れた人たちなんだろう。

 うっかり寝てしまったが、寝ているときに前後にいる人が倒れたらそれに俺も巻き込まれて後続に踏まれてしまったのだろう。

 ゾッとする。

 それを考えてたら突然、前のやつが倒れた。

 あぶない巻き込まれるところだったが、なんとか、持ちこたえれた、が止まるわけにもいかない、歩き続けなければ、後ろに押され、倒れてしまうだろう。そうなれば踏まれてしまう。

 列から出ようにも、前も後ろも、右も左も列が詰まって出られない、歩き続けなければ転んでしまう。

 どうしようもない、踏まれるにしても疲れきって気を失った状態で踏まれたい。

 いや、踏まれたくはないが、踏まれたくないから歩くしかない。




 歩き続けて一時間ぐらい経ったんじゃないだろうか、列の前の方が止まった。

「やっと、着いたのか?」

「ああ、着いたよ、これが僕達が歩き続けた理由さ」

 俺の後ろで歩き続けた人が答えてくれた、この人さっきまで死人のような顔で歩いてたと思うんだけど、ずいぶん元気だな、それくらいのものがこの場所にはあるのだろうか。

 歩みは止まったと思っていたのだが、まだ、じわじわと列は動いているようだ。

 じわじわと動き続けた列はゲートに入っていく、ゲートには係員がいて、携帯端末デバイスの提示を求められた。

 流されるままに提示すると、係員の人はすこし渋い顔になったが、通された。

 通された先はドーム、なんだ?

 ゲートで渡されたチケットに書いてある席番号で待っていると、会場が暗くなり、中央のステージに数人の女性が上がってきた。

 お、見たことある気がするな、確かアイドルユニットの【ノンコンポルパート】だったか。

 もしかして、さっきまで何時間もかけて歩いてきた人達はこのアイドルグループのライブに来るために並んでいたのか?

 それにしてもおかしい気がしたが、ライブを見ていたらどうでもよくなった。

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