第42話:ドロースⅡ〜人の手による仕事〜

 今日のバイト先は、前回の卵拾いで来た森とは違う森だ、いや、森というには林という感じだな。

 規模は大きくなく、木々の種類も同じ真っ直ぐで背の高い木しか生えていない。

 そして、今回のバイトの内容なのだが所謂林業、この林の木を出荷するために切り倒すというのが今日の仕事だ。

 この程度、自動でやっている植林場もこの世界にはいくらでもあるというのに、この植林場はなぜ手作業で伐採などするんだ。

「お集まりの皆さん、この林は卵から生まれた苗木を人の手で選別し、一切の魔力や農薬を使わずに育てられた純粋な木々です」

 なにやら今日の現場監督が集めたバイトに作業内容の説明に交えてこの木々の価値について話を始めた。

 要約すると、この木々は便利な技術を一切使わないことで自然な品質で、魔力が淀んだりもしない、最高級木材らしい。

 そして、最後までそれを貫き通すために、今日の作業は今時あり得ないことに斧を使い、人の力だけで木を一本一本切り倒すらしい。

 その話を聞いて周りがどよめき出す。

 あらかじめ聞かされていた話では、簡単な木材の収集という説明だったし、大体のバイトは若く、子供の体だ、斧など扱ったことの無いものの方が多いだろう。

 さらに先程の説明だ、この木々の価値がものすごく高いという話を聞かされた直後に手作業で斧を使い木を斬り倒してもらうなんて言われたら、萎縮してしまうものも多いのではないだろうか。

「作業に際して、当然ですが身体強化魔法や、斧に能力付加などをした者には、その作業者が関わった木を丸々一本買い取ってもらうことになるので、絶対に、魔法に頼るなどということはないようにしてくださいね。テルヴィアで正式採用されている魔法検知器で監視していますからね!」

 なんという、なんという職場だ!

 確かに、この仕事は給料がやけに高かったが、こういうことか。


 作業が始まって少し経ったが、やはり周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図といった有り様になっていた。

 僕は斧を扱った経験もあったし、問題なく作業出来ていたが、やはり他の人間はそうでもないものが多いらしく、手間取っていた者の方が多かった。

 現場監督も指揮を取るわけでもなく見ているだけだし、この手のバイトはもうすることは無さそうだと考えながら作業していたとき、やはり事故は起きた。

 切り倒した木の倒れた方向が不味く、他の作業者の上に倒れた。

 俺は慌てて駆け寄り、作業者の上に倒れてきた木をなんとか少しだけ持ち上げ、他の作業者に指示して引っ張り出させた。

 回復魔法をかけようとするものがいたが、現場監督が慌てて走ってきて信じられないことを言い出した。

「ここで魔法を使うんじゃない!」

「なに?怪我人だ、回復魔法ぐらい使わせてもらう」

「そんなことしたらこの木材に悪影響が出るだろうが!貴様がすべての木材を欠いとると言うならばいいがな?」

「いいだろう、僕がすべての木材を買ってやるよ」

 あーあ、言ってしまった。まぁ、借金が多少増えるぐらいだ、問題ない。

「なに?」

「おい!作業者の皆!作業に魔法解禁だそうだ!さっさとこの仕事を終わらせるぞ!」

 一連の騒動で注目を集めていため、この指示は良く通った。たちまち、作業者の皆の作業効率がよくなり、あっという間に林があった場所には斬り倒された木が積まれた。

「さぁ、これで作業は終了だな、でこの木はいくらだ?」

「いいんだな?この量だからな、ざっと5億パソってところだな」

 5億か、結構高いな、まぁあいつなら払えるだろう。

「請求書はこのアドレスに送っておいてくれ、あと、今日のバイト代はしっかり振り込んでおけよ」

「お、おう」

 僕の余裕そうな態度に気圧されぎみだった彼だが、渡したアドレスを見て顔色が真っ青になった。

 さて、借金がまた5億も増えてしまってはどういう仕事をして返そうか、そんなことを考えながら帰路についた。

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