第39話:ナルメニア=ロール〜ダイスに魅せられた少女〜
目の前で回転する皿の上で転がる小さな2つの
立方体が私の望む顔を見せてくれれば大勝利なのだが、万が一外してしまった場合はまぁ、酷いことになるだろうが、勝てる確率は低くとも、酷いことになる確率よりは高くないし、私の勝ち目が出る、そういった根拠のない自信もあった。
回転皿の速度が徐々に緩やかになり、立方体の目が明らかになった。
来た、5-3。
「どうだ!これであたしの勝ちだな!」
「まったく、嬢ちゃんは強いねぇ」
「ナルメニア嬢はダイスの神に愛されてるんだよ」
「この世界に神なんているのか?」
「うちの世界ではギャンブルの神が死んだとかそんな話もあったぞ?」
「なんだって転生する世界なんだ、神だって転生するんだろうよ」
「じゃあうちの世界のギャンブルの神がナルメニア嬢にゾッコンなのか」
「俺らもナルメニア嬢のことは皆大好きだろ、神だって惚れらぁ」
ここはグルヴェートのはずれにあるカジノ、いや、はしっこあたりにあるカジノだ。
ギャンブラーってやつはこうやって縁起が悪いからと、わざわざ言いづらい言い回しを好んで使う、あたしもギャンブラーの一人だからその気持ちはわからなくもない。
あたしはもとの世界でもギャンブラーだったんだけど、まぁ、負けに負けまくって酷いことになって死んだ訳なんだけど、転生してきてもずっとこんな暮らしをしてる。
まだ見た目が若いからってのもあるだろうけど、カジノの常連のおっさんたちはあたしにとてもよくしてくれる、まぁ、勝負に情けは一切持ち込まないし、金の貸し借りも一切なしだ。
ただ、あたしが勝ったときなんかは皆喜んでくれるし、負けたら一緒に悔しがってくれる、その程度だが前は勝てば恨まれ、負ければ嘲笑われた、それに比べたらこの世界のカジノは平和なもんだ。
まぁ、金をかけてるうちの話なんだけどな。
「おい、ナルメニア=ロールってのがいるってのはここか?」
「ああ?なんだテメーは?」
突然、大声で怒鳴りながら大男が入ってきた。
「なんでもダイスでは負けたことがないらしいな」
噂を聞いてきた奴か、こういう奴がかけるのは金じゃないことが多く、いつもよりマジでやらなきゃならない。
「なんの話だそりゃ、負けたことがないやつなんて勝負したことがないやつしかいねぇだろ。あたしだって負けたことくらいあるさ、まぁ、ほんの3%ぐらいだがな」
ま、この世界に来てからの話だがな。もとの世界では勝率の方が3%みたいなもんだ。
「ほぉ、大した自信だ。そこまで自信があるのならば金でなく、もっと大きいものをかけて勝負といこうじゃないか」
来た、この世界ではどれだけの大金をかけて勝負しても生活に支障はない。最低限の生活は保証されてるからな。
金をかけるだけでは、スリルが足りない。そう考える奴が言うもっと大きいものってのは大体きまっている。
「お互いに負けたらなんでも相手の言うことを一つ聞くってのはどうだ?」
そう、服従だ。
まぁ、1つだけってのが、こいつの器の大きさだな。
「いいぜ、ゲームのルールはどうする?」
「シンプルにいこう、ダイスで大きな数を出したら勝ちというのはどうだ?」
「うーん、それは面白くねぇな。ダイスを交互に振って相手が前に出した目と同じ目を出したら負け、これでどうだ」
人生かけたゲームのスリルは一回キリで終わらせるようなもんじゃねえよな?
「……いいだろう」
「じゃあ、最初の負け目は1な。順番はコインでいいか」
コインを弾き、手の甲で受け止める。
「表だ」
「残念、裏だ。あたしが先攻だな」
深呼吸をして、ダイスを振る。
6
「いい目だな」
「おめーよ、このゲームでダイスの目の良し悪しなんて気にしてるうちはギャンブラーに向いてないぜ。当たるか外れるかだ」
「はっ、ぬかせ。俺の番だな」
4
「………………」
2手目からはお互い無言でダイスを振っていく。
3,6,1,3,4,…………。
10手も振ったところで、なにかに気づいたかのように徐々に相手の顔が曇り始める、額に汗がにじみ、ダイスを振る手が震え始める。
何手目かは目を記録してる奴しか把握できてないような数のダイスを振り、ついに目が被る。
「あたしの目は6、今のあんたの目も6、このゲーム、あたしの勝ちだな」
「………………」
ゲームが終わったとき、相手の男は全力で走り回った直後のように汗だくで息も絶え絶えという様子だった。
「あたしからあんたにする要求は、そうだな、今日から夜が3周りする間、この店で下働きな」
「そんなんでいいのか?」
「いいぜ、あたしは優しいからな」
まぁ、あたしに負けた奴は皆そう言われてその後もこの店に入り浸ってるようになっているし、こいつもそうなるだろうな。
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