第16話:テルシャ-グーペル~卵農場の朝は早い~
私はテルシャ、テルシャ-グーベルというものだ。私は前の人生での経験を活かしてこの世界で牧場を営み始めて数年がたつのだが、この世界の牧場生活は何かがおかしい。
卵を採る為に飼育している動物がニワトリという喧しい鳥、ベルシガムという日中まったく動かない蛇、ハーメンというスライムのようにうねうねドロドロしている何か、等々と、どれも私の知らない動物ばかりだ。
牧場を始めた当初は私の世界の牧場で一般的に飼育されていたベクールという動物はこの世界では卵を産めないらしく、牧場での飼育価値はゼロだそうだ。私はあの卵の味が結構好きだったのだが、ベクールが転生してきた時は基本的に卵の状態、奇妙なことに卵の中に卵が入った状態で転生してくるから自分で育てて採る必要はない、扱っているお店で注文すればきがるに食べることのできるものだ。まぁ、私が昔育てていたベクールの方がおいしい卵を産んでいたのだが、まぁいい。
私の一日はまず、けたたましい鶏の声で始まる、奴は産む卵も美味いし、奴自身も美味いという育てるのに最高な特性を持っている、卵を産めなくなったら食べるということもできるのが利点だ。ただ、知り合いの農場歴の長い人曰く、「卵が産めなくなった鶏は少し味が落ちるから、味が落ちる前に潰して食べるんだ」とのこと。たまに今日何羽か潰すから食べに来なよと呼ばれ行ってみると、まだ生きている鶏を肉に変える作業から手伝わされたりするんだけど、やっぱり私が普段食べている卵が産めなくなった鶏に比べたら格段に美味い。
私もたまに、まだ卵を産める鶏を潰して食べたりもするのだけれども、彼にその話をしたら「え、あの子はまだ早いでしょ」とか言われる、あの人は鶏を見ただけで判断できる超能力を持っているに違いない、結構超能力者がその辺うろついている世界だし、そういう人なんだろう。
あ、違う、朝だ、鶏肉がおいしいという話はいまするべき話ではないね、朝は鶏に起こされ、私は眠いので餌をたまに間違える、ハーメンの餌はなんでもいいのでいいのだが、鶏とベシルガムの餌を間違えると大変だ、ベルシガムは小動物を食べるし、鶏は穀物を食べる。間違えるとどっちも食べずにベシルガムに至っては動かないから気づいたら死んでいるということもある。あと鶏はうるさい。鶏がうるさいのはいいんだ、奴は美味しいから。ただ、ベシルガムが死んでしまうのは困る。ベシルガムの卵は薬に使えるので高く売れるし、ベシルガムが生まれてくる卵は高いのだ。しかし結構簡単に死んでしまう、ハイリスクハイリターンな家畜だ。卵の味は料理向きではない。
餌を間違えることなくあげたら次は畜舎の掃除をする。これは簡単だ、他の動物を隔離してハーメンを放すだけでいい。ハーメンはなんでも食べるから他の動物の出した汚れとか食べ残しとかをすべて片付けてくれる。ハーメンは一番飼うのが楽な家畜だろう、餌はなんでも食べるし、軟体で衝撃にも強いから万が一畜舎が全壊しても無事だ。ただし、こいつだけは卵が出荷先で何に使われているかわからない。緑色の殻もプルプルとしたうっかり割ってしまうとなんでも溶かしてしまう液体が漏れ出すから卵の扱いは少し難しい、それさえ気を付けていれば卵は高く売れるし、育てるのが楽で最高の家畜なんだ。でも、この卵がどこで何に使われているかはわからないんだ。
掃除が終わったら今日出荷する分の卵を箱に詰める。鶏の卵は割れやすいので気を付けながら、ベシルガムの卵は結構割れにくいから多少乱雑に扱ってもいいが、商品なので丁寧に、ハーメンの卵は割れたら一大事なので、絶対に割らないように慎重に扱う、そこまでを終えて私の一日の仕事は終わる。
大体この辺りで日の勢いは六割程落ちてきているといったところ、ここから寝るまでの時間が私の自由な時間なのだが、私は日が落ちるまでにその日に必要な買い物を済ませて、牧場に戻ってくる、私がこの世界で牧場を営んでいる理由の半分はこの時間のためだと言ってもいい。残りの半分の内訳は経験があったからが二割、鶏がおいしいからというのが三割。
日の勢いが完全に消えて薄灰色の光を地上に届け始める頃、ベシルガムが動き出すのだ。ベシルガムのこの動きが好きだから私は牧場をこの世界でもやっているようなものだ。もしベシルガムがいなければ私はその辺の販売店で働くような生活をしていたと思う。
私の牧場生活の一日はベシルガムがニョロニョロしているのを見ながら終わる。
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