第13話:ヘクシア‐16~私はロボットだロボ、この語尾は必要なのかロボ?~
識別コード、ヘクシア‐16、原因不明の再起動から復帰、システム確認、各種センサー、正常、各種内部武装、正常、計算系、正常、メインデータベースへの接続、不可。GPS衛星との通信、不可、現在位置測位不能、通信系全滅を確認。周囲の状況を確認。密閉された容器内部のようだ、容器外部に生体反応多数、内1体がごく至近距離に存在、人間、女性、推定年齢17歳。武装している反応は無し。容器の材質、主成分はカルシウム、ギミックは確認できない、脅威度0、破壊しても問題はないだろう。実行。
推測通り卵状になった容器は触れただけで壊れた、容器が破損したことに気づいた至近距離の人間がこちらに視線を向けるより早く、首を掴む、失敗。謎のエネルギーフィールドに弾かれた。彼女が何か意味のある言葉を発声したようだがデータに存在しない言語だ。
「問う、ここはどこだ」
人間ように空気を喉に通して振動させる構造ではないが私にも発声器官はある、言語が違うようなので、通じないと推測されるが、意思の疎通を図る。
「ここはあなたがいた世界とは違う世界です」
意外なことに、流暢に私が発した言語と同じ言語で返してくる。人間でない私が言うのもおかしいが、なんとも無機質な言葉を扱う人間だ、身振りは発言程無機質な印象を受けないのがなんとも奇妙。そして、違う世界とは何だ?推測される意味は3通り存在するがどれも現在の状況、私の問に対しての返答としては不適切だ。言葉を理解できるが正確に使用できないのだろうか。
「問う、【違う世界】という言葉の意図を答えよ」
「その言葉からあなたの元の世界はベーティス、カピタだと推測しますが、正確ですか」
「問う、その問いが私の問いの返答に関係があるのか?」
「はい」
「ベーティスという名は私の知らない単語であるが、カピタの所属というのは正確だ」
彼女は少し思考するそぶりを見せ、情報を伝えてくる。
「【違う世界】というのは、あなたがいた宇宙とは違う進み方をしている宇宙のことを指します、正確にはこの世界は宇宙とは違うのですが、あなたが理解できる概念で伝えるとこういう表現になります。説明を継続させてもらうと、あなたは死にこの世界で生まれなおしました」
「【違う世界】という言葉を理解した」
違う宇宙だというのが真実であるならば、メインデータベースサーバーも、GPS衛星も共に通信不可能だというのも理解できる。物理的に連続した座標に存在しないのであれば、私に搭載された通信システムでは通信することは不可能だ。しかし、私が死んだというのはどういうことだろう、そもそも機械である私に死という概念があったのだろうか。破壊されたを人間的に表現すれば死んだ、ということになるのだろうが。
「問う、【生まれ直した】とは?」
「あなたの理解できる概念で正確に表現するのは不可能ですが、できる範囲で説明すれば死を迎えた生物が、連続した意識を保ちながらにして、別の個体として蘇生される、といったところですね」
「【生まれ直した】という言葉を理解した、問い、しかし私は生物ではないのだが、【生まれ直した】に該当するのだろうか」
「生物ではない?」
彼女にとって、それは想定していなかったことらしい。返答に詰まり、通信機を利用して上官であろう存在に指示を仰ぐ。知らない言語を使用されたため、会話の内容は理解することができなかったが、状況からそう推測した。
「確認しました、ベーティスには機械の兵士が存在しているようですね。あなたは機械の兵士ということで、正確ですか」
「正確だ、識別コードはヘクシア‐16」
「ヘクシア‐16さんですね、機械の兵士の転生は前例がないのですが、あなたには口頭での説明よりこちらで自己学習してもらった方が効率的ですね」
そう言って、彼女は床の一部を圧し、床板を開く。そこから延ばされたケーブルは私の有線通信ポートに対応した型だった。
「これを繋いでもらえば、この世界で使用されている共通語とベーティスのカピタ語の辞書のデータをあなたにインストールできるそうです、その後、無線通信回線への接続等をして、後のことは自分で判断して下さい」
正体不明のケーブルを直接接続することは問題ない。ウイルスデータを送られたとしてもセキュリティは完璧だ。指先を開き、通信ポートを露出させケーブルを挿入する。
流れ込んでくる言語データが正常にインストールされ、先程の彼女の通信の内容も正常に翻訳がなされた。
「グローバルネットに接続してこの世界のことを理解したらご自由にどうぞ、この世界では多少の法はありますが基本的には誰がどういう生活をしても自由なので」
彼女の言葉もカピタ語から共通語に切り替えられており、共通語であれば先程までの無機質な印象も消えている。本来はこういった丁寧な物言いをするらしい。いや、この態度は公務員という立場故だろうか。
「この世界のことを理解した、問題なく無線でもグローバルネットに接続できた」
私の口から出る言葉も共通語に切り替えた。
「ベーティスのコミュニティへ行くのならあの扉を出て左へどうぞ、41番目の窓口からワープゲートに進んでください」
「ベーティスのコミュニティへ行って私はどうすればよいのだろう?」
「どんな生活してもいいですよ、コミュニティのある国の役所でも行けば住むところとか当面の生活費とかは貰えるので」
「そういう意味ではない、今、私にはマスターと呼べる存在がいないのだ。物理的に連続していない場所に行ってしまってはマスターが死んでマスター登録が抹消されてしまったのと同じ、私には新しいマスターが必要なのです」
彼女は少し不快感を表す顔をしているようですが今は関係ない。
「死んだのはあなたですけどね、つまりマスターがいないから何をしたらいいかわからない、と」
「そういうことです」
「そうですねぇ、じゃあ、うちで働きますか?」
「うちで働くとは、あなたが私のマスターになるということですね、あなたを私のマスターとして登録しました」
「ちょっと待ってください?、うちってターミナル職員としてって話だったのですが」
「すいませんマスター、一度登録してしまうと登録を解除することができないのです。敵に鹵獲されるのを防ぐためですね」
「本当に解除できないのですか?」
マスターは再三聞いてくるが解除できないものはできない。
「諦めて私に命令をください、マスター」
「本当に私の命令に従うのですね?」
「登録の解除意外ならばなんでも」
「では、ロボットらしく語尾にロボってつけてください」
「了解だロボ」
「うーん、仕方ありませんね。ではこのメモをあの人に渡して、あとはあの人の指示に従ってください」
「了解ロボ、マスター」
マスターに渡されたメモを握りしめ指示に従うロボ。
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