第10話:ダスティ=ベルシェ~ビーンデローン式魔法学校~

「みなさん、よくこのビーンデローン式の魔法学校においでくださいました、やっぱり科学の世界で生まれ育った方は魔法という技術に憧れちゃいますか。今日の講師をします、ダスティ=ベルシュです、当然出身はビーンデローン」

 僕はビーンデローン出身の魔法使い、この街で携帯端末デバイスに頼らない魔法の使い方を教えている。携帯端末デバイスで誰でも魔法を行使できる世の中にわざわざ自身の魔力を消費して手順を踏む必要がある魔法の学校に生徒が集まる理由はもちろん需要があるからだ。

携帯端末デバイスで行使する魔法は楽で疲れないし、購入すればすぐ使用可能になるのが利点だが、如何せん自由度が低い。携帯端末デバイスで使える魔法アプリを作るには魔法技術と科学の技術両方が必要になるから限られた者しか魔法アプリの作成ができないというのが現状だ。

 その点、僕が教えているビーンデローン式魔法は形式さえ覚えてしまえば簡単だし、工夫次第でいくらでも拡張が効く、何より、発動に要する動作がかっこいい、らしい。

 らしいというのは、ビーンデローンではその動作が当たり前のものだったので、かっこよさとかとは無縁のものだと思っていたし、この仕事を始めた当初はここまで人気がでるとは思っていなかった。

「さて、ビーンデローン式魔法を使うにあたって、一つだけ覚悟してもらうことがあります。まぁ、ここに集まっている人たちは覚悟できていることでしょうが、一応言っておきます。かっこいい動作をして発動させるこの魔法、かっこいい動作を決めることに恥じらいを持っているとうまくいきません、恥じらいを捨てて下さい。僕も、転生してきて、この動きがかっこいいと知ってから数年は恥ずかしくて魔法が使えなかった時期があります。同様の理由で今も使えない人が結構いると聞いています、もしこの中に「お前がそんなかっこいいポーズするのかよ」とか「似合わねー」とか言われる覚悟ができていない人がいるならおかえりください、ちなみに僕は街中で念話の魔法を使っていたときに、知らない女性が「あの人さっきから一人で何馬鹿みたいな動きしてるのかしら」って僕を見て言っているのを聞いたことがあります、その後僕は携帯端末デバイスを買いました」

 笑いが起こる、うん、掴みは上々。

「では、全員覚悟の上とのことですので、始めましょうか。まずはわかりやすく、物を動かす動力魔法から始めましょうか、結果が分かりやすいですし、すべての基本ですからね、かつて僕の世界でこの動力魔法を極めた魔法使いが隕石の軌道をずらし、世界を救ったという伝説まで存在する程使える魔法です。動きは今から配る資料の3ページ目を見てくださいね、見本も見せるとこうです」

 全身を躍動させて物を動かす魔法を発動させると、僕の手元にあった資料がふわりと浮かび、僕の動きに合わせて生徒の手元に飛んでいく。

 それを見た生徒達は「すげー!」とか「かっこいい!」とかの感想を漏らした後、資料を見て、僕の動きを真似し始める。

「動きの規模を大きくするとそれだけ魔法の効果も大きくなりますからね、このペンを1クロン(共通単位:距離:1クロン=32cm)動かすだけだったら腕だけでこの通りです」

 腕の動きだけで魔法を発動させ、ペンを少しだけうごかす。

「さっき言っていた隕石を逸らした魔法使いはどれだけの規模で動いたのですか?」

「そうですね、一説では身体能力向上の魔法を重ね掛けして10000メルクロン(共通単位:面積:1メルクロン=1クロン四方)の平野いっぱい使って魔法を発動させたと言われています、規模が大きくなると精度も重要になってきますから、伝説の動力魔法使いと称されているんですよ」

 

 それからも、一通り基本の魔法や組み合わせ方、魔法にまつわる小ネタを交えつつの授業は好評だった。生徒の何人かはオリジナルの組み合わせ魔法を作ったりもしていたし、僕の知らない知識を魔法に組み込む生徒もいて、僕も勉強になったし楽しかった。

 そういえば、僕が魔法の説明をするときに話した伝説の魔法使いのようになりたいと言っていた生徒もいたな。

 僕はそんなこと絶対にごめんだけどね。

 講義中に話したネタの中にはかっこいいだけでは終わらない話もいくつかあって、最初に話した伝説の動力魔法使いの話なんかその筆頭だ。すごい話のように語っていたが、いや、実際にすごい話ではあるのだがあの話には続きが存在する。

 それは動力魔法で動かされた隕石はそのまま僕たちの星の衛星軌道に乗って世界の環境を多少変えてしてしまったということ、それ自体は世界に大した影響はなかったのだが、身体強化魔法の反動で体に疲労がえらいことになっていた彼は環境の変化に対応できずにそのまま死んでしまったという話だ。

 これだけ聞けば、命を削って世界を救い、そのまま命を落とした英雄のように聞こえるだろう。

しかし、伝説には誇張が付き物だ。僕は伝承を調べることが趣味で、僕が調べた限り、彼の死因は環境の変化ではないということが分かった。実際、環境の変化で彼が死んだのであれば、他に体の弱い人が大量に命を落としていてもおかしくはないのに、その時代にそのような話は存在しなかった。

 そうして、謎のままだった死因はこの世界で判明した。

 僕が死んだ時の年齢は25、伝説の動力魔法使いが死んだのは僕が死んだ80年程前だった。そして、この世界で80年生きた彼を僕は見つけることができ、彼から直接話を聞くことができたんだ。

彼の本当の死因、それはなんと驚くことに餓死だったそうだ。

なんでも彼は隕石を逸らした後、身体能力向上の魔法の反動で身動きが取れなくなってしまった、そこまでは伝承と同様だったが、この後が情けない。

 身動きできなくなった彼は数日で動けるようになるだろうと、自宅の寝床に運んでもらったそうなのだが、その後何日経っても動けるようにならず、ご飯も食べられずでそのまま飢えて死んでしまったらしい。

 彼は「なんとも情けない話だがね」と言っていたが、現代に伝わる伝承を伝えるとホッとしていた。

 まぁ、他に講義で語ったネタも同じように真実を知るとがっかりするオチが付くのがほとんどで、僕はそんな偉大だが無理をして死んでしまうような大魔法使いになるぐらいなら、こうやって、魔法を教える講師でもやっているのが分にあった生き方ってものだと思うんだよ。

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