フライ・ミー・トゥ・ザ・ペーパームーン
@lintooooon
序章
夜が来たりて
XX00年。
確かなのはその日から覚めない悪夢が、いや覚めているのに薄い膜のかかって動きが制限されるような感覚が、この国のほぼ全員に広がっていったことだ。
その怪物は青銅のような色の肌をしており上半身は人型で腕がない代わりに四本の脚があり敏捷で頑丈、長く伸ばした舌を振り回してあっという間に警備員の首を刈った。
低い声で唸りながら噴き出す血を舐め、次の標的を定めようとする怪物に別の警備員が発砲。だが四脚で2メートルは飛び上がり難なく回避し、恐ろしい速度で詰め寄りその警備員の首を吹き飛ばす。
人間は異常事態に遭うと反応が遅れるものらしく、そこでようやく悲鳴が上がり会場がパニックになる。その恐慌が静かになるのに30分もかからなったようだ。
怪物は式典の客全員を殺害した後非常階段から下に降り重武装の特殊部隊を前に仕留められたがその死骸はすぐに気化するように消え跡形も残らなかったそうである。不気味な事件だった。
だがこれで終わりではなく、その後各地で同様の怪物に襲われ死者が出る事件が相次ぐ事になる。
そんな世界でもどうにかこうにか20年も続いてるんだから、すげえよな人間。
でも私が見る限りじゃあこの20年、特段変わったようには見えないね。
「狩人」みたいなやつらは出てきたねえ……あいつらもあいつらでよくわからん不気味さがあるけど。
まあ、どっちにしろ私にはどうでもいいんだが。
独り言ちながら金網に寄りかかっていた『白い髪の女』は建造物の壁を登ってきた化け物に一瞥をくれる。
と、どういう仕掛けか、またいつの間にそれをしたのか、怪物の周辺には光の網が作られていた。物体を貫通する光条が碁盤の目のように並び怪物の体をサイコロ状にカットしていき、その目に獲物を捉えたまま何が起きたのかもわからずバラバラになり、やがて解けて消えてゆく。
それを見届けた『白い髪の女』は表情もなく、壁の際から階段を登るように空中へ二、三歩踏み出すとそのまま薄く透明になり見えなくなってしまった。
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