涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ第12巻(むろん二次) 涼宮ハルヒの恋心(れんしん)
齋藤 龍彦
第1話【正夢】
佐々木の名前……なんてったっけ……
『キョン、結局キミは僕の前からいなくなる人なんだね……』
佐々木にしてはらしくない台詞だった……こんなくだらんことは覚えているのに肝心の名前の方が思い出せない。
「あれー? キョンくんがもう起きてるー」
いつもの朝、俺は妹の必殺布団はぎによって、傍らで薄い毛布にくるまっていた三毛猫とともに目覚めさせられるのだが、母親の命令を忠実に実行する朝一番の刺客、妹が今日その役目を果たす必要はなかった。俺は既に上体を起こしていたからだ。
「じゃあシャミ借りてくねー」と言って妹は雄の三毛猫を持ち出していった。表面上はまるでいつもの日常。だがしかし——
俺は夢を見ていた。ひたすら佐々木の名前を思い出そうとする夢を。その一方でこうも思っていたのだ。これは夢だ、と。そういう薄々とした自覚もまた確かにあった。夢の中で佐々木に言われた言葉は夢の中でもけっこう堪えたが、半分夢の中でこうも思っていた。
なに、起きればどうせ思い出すだろう、と。
だが起きた今でさえ思い出せないでいる。これは夢ではない。起きてさえも夢の続きを見ているみたいだ。あるいは、夢が正夢になっちまったか。
佐々木、佐々木、佐々木——なんだっけ? 思い出すのは俳優とかサッカーの元代表監督とかコジローとかそんなのばかり。
卒アルだ。ふとそう思った。俺はベッドから跳ねるように飛び出し納戸へと直行する。
そこに中学校の卒業アルバムはあるはずだった。だが無い。見当たらない。納戸の本棚。卒アルが立っているはずだと俺の記憶に刻まれているその位置には、古びたプリントの束が代わりに立てられ空間が埋められていた。
俺はその紙の束を取り出す。どれもこれも中学時代の答案、答案、また答案。それを一枚一枚見てうんざりする。思ったこと——中学の勉強など完全にこなせなくても高校生にはなれるんだな。
この上に高校の勉強を積み上げているんだから今の俺の惨状もある意味当たり前である。
違うっ、そうじゃない。そんなことはどうだっていい。
中学の卒アルが消えた。活字によって佐々木の名前を確認する方法が断たれた。
なぜ、ない? なぜ、思い出せない?
『そろそろこの世の不思議が登場してもいいと思わない?』
ふいにそんなことばが頭に浮かんできた。ハルヒだ。中間テストの十日前。
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