第8話 リーリスと人間界でおデート?
オレが人間界へ戻って来たのは夜になる直前だった。
既に空の大半が夜の色に変わっている。
腕時計を見るが精霊界へ行く前から全く時間が経っていなかった…。
どうなってるんだ?これじゃあさっきまでと変わらないじゃないか…
だがさっきは確かに精霊界でも日暮れが始まっていた…
イエポンが建築に使っていたセメントも固まっていたし、時間経過が現象として起こったのは間違いないはずだ。
でも実際は変化なし…
いや…まだ判断を下すのは早計だ。
明日もう一度精霊界に行った時にどうなっているかが問題なのだ。
しかし今日は疲れたな…早く家に帰って晩飯を食って風呂に入って寝よう…オレは疲れた体にむち打ち家路を急ぐ。
「…ただいま~」
玄関のドアを開け照明を付ける。
半日以上人が居なかった屋内は少しひんやりしていた。
廊下を通り抜け居間に入り明かりを点ける。
実は両親は昨日から出掛けており明後日まで帰らない。
結婚して18年近く経つのに未だラブラブで突発的に二人で旅行に行ってしまう事もしばしば…。
まあそれも今じゃもう慣れてしまったけどね。
今からコンビニへ行って弁当を買って来たり、何か調理するのも面倒くさくなったので今晩はカップ麺でもいいか…
オレは準備をする為ショルダーバッグをソファーに放り投げる。
「ぷぎゃっ!!」
ん…?今何か変な声が聞こえなかったか?
ドキリとして背筋を冷や汗が伝う…
おいおい…いくらオカルトが好きなオレでも本物の幽霊とご対面はご免被るぞ…
それに今は六月、幽霊の季節にはまだ早いだろう。
すると先程放り投げたショルダーバッグがモゾモゾと動き出したではないか!!
「も~酷いな~何も放り投げる事無いじゃない…」
頭を押さえながらバッグから這い出て来たのは何と妖精のリーリスだった。
「…おっ…お前!!ついて来たのか!?」
オレは驚きの余り思わず声を張り上げてしまった。
まさか…いつの間にバッグに入り込んだんだ?
全く気付かなかった…。
「…この事をチャイムは知っているのか?」
「ううん…行きたいって言ったらきっと止められると思ったから…彼女、今頃呆れてるんじゃないかな…
エヘヘ…私もどうしても九十九君の住んでる世界を見て見たくて…ゴメンね…」
頭をコツンと軽く小突きウィンクしながら舌をチロッと出すリーリス。
一言文句を言ってやろうと思っていたオレだが、その小悪魔的な仕草に完全に興が削がれてしまった。
「…来ちまったもんは仕方が無い…でも気を付けろよ?二つの世界を行き来する事で何が起こるのかオレにも分からないんだからな…」
…まあ本人も反省している様だからこれ以上クドクド言っても仕方が無い…オレは話題を変える事にした。
「そう言えばお前達って何か物を食べたりするのか?」
カップ麺にお湯を注ぎながらリーリスに質問した。
一度チャイムを『
だから今のオレはもの凄く空腹である。
当然チャイムも食事を摂っていない。
「…そうね…私達って元々光の球みたいな精霊だったじゃない?
そもそも食事と言う概念と習慣が無いから分からないわね」
テーブルの端に腰かけ両足を交互にブラブラさせながら答えるリーリス。
それはそうだろうな…ただ意識体である精霊が存在を維持しているエネルギーとは何であろうか。
以前までの『精霊界』には時間経過が無かったからそのエネルギーに当たる物の消耗は無かったんだろうが今は違う。
時は動いているのだ。
オレの思い付きに間違いが無ければきっとフィギュアライズ達は何かしらのエネルギー補給を必要とするのではないかと考える。
「試しにちょっとこれ食べてみるか?」
オレは出来上がったカップ麺から玉子の具を取り出す。
黄色くて丸いフワフワしているアレだ。
小皿に乗せ箸で細かく分けた物をリーリスに差し出す。
そのままでは食べづらいだろうから爪楊枝にさし、熱を冷ます為にフーフーと息を吹きかける。
「…これが食べ物…」
ゴクリと喉を鳴らすリーリス。
恐る恐る顔を近づけゆっくりとかぶり付いた。
「………!!?」
目をまん丸に見開き声にならない唸り声を上げ動き回る。
もしかして食べさせてはいけなかったのか…?
オレの頭に一抹の不安がよぎる。
「何これ!?こんなの初めて…!!九十九君!!もう一口くれない!?」
「…あっ…ああ…」
もう一欠け玉子を爪楊枝に指す。
するとリーリスは待ちきれないといった様子で口を開ける。
あっという間に食べてしまったので次も用意するオレ。
数回繰り返すと小皿に取り分けた分の具は瞬く間になくなっていた。
中々の食べっぷりである。
「次はこれいってみるか?」
リーリスの食べ方があまりにも可愛らしかったものだからオレは調子に乗って今度は短めの麺をカップから一本取り出す。
もちろんフーフーして冷ますのを忘れない。
「お~~~~!!!」
瞳をキラキラ輝かせるリーリス。
箸で近くまで運ぶとその麺を両手で掴み端から食べ始める。
いくら平べったくて幅2ミリメートルにも満たない麺であっても
ちっちゃな彼女にはかなりのビッグサイズ…
口いっぱいに頬張っている。
何だか小動物にエサをあげている感覚に陥る。
「むぐ…むぐ…むぐ…ぷは~…幸せ…」
5センチメートル程あった麺をすべて平らげゴロンとテーブルの上で大の字になる。
お腹をさすり満足そうだ。
彼女を見て思う…きっとチャイムや他の子達も食事を必要としている筈…
明日は何か美味しそうな物を見繕って持って行ってやろう。
「うわぁ~何だかベタベタになっちゃった…」
困り顔のリーリス。
彼女の身体を見ると胸の辺りがスープで濡れてしまっていた。
「よし、洗ってやるから洗面所へ行こうか」
リーリスを手の平に乗せ洗面所に移動、洗面台の排水口をゴム栓で塞ぎお湯で満たす。
「わぁ~温かい水たまりだね!!」
洗面台の縁からお湯に手を入れてかき回している。
オレ達人間にとっては顔を洗うだけの少量のお湯だが
彼女にとってはプール並の湯量だ。
さて…リーリスは元々食玩のおまけフィギュアである訳だが
全身が同一素材で出来ていて服も身体と一体化している筈。
だからこのままお湯に入ってもらってジャブジャブ洗うだけでいいだろう…そう思っていると…。
「…ふぅ…」
何ぃ!?………何とリーリスが服を脱ぎ始めているではないか!!!
何故だ?服は身体と一体だったはず…。
「あやめちゃんが着替えるのを見た事があったから…もしかしたら私も出来るんじゃないかと思って…」
そう言いながら遂には一糸まとわぬ姿になってしまったではないか!!
オレは思わずリーリスから顔を背けていた。
別に人形の裸なんだから意識する必要なんか無いじゃないか…
何やってんだオレ…。
「それっ!!」
ジャンプ一番!リーリスは洗面台温水プールに勢い良く飛び込む。
「うおっぷ!!」
上がる水しぶきがオレの顔に盛大に打ち付ける。
「やったな~!!」
ふざけてやり返してやろうと思いリーリスを見ると…。
「!!!!!!」
何と彼女は仰向けでプカプカと浮いているではないか!!
もちろん全裸で!!
「…もう勘弁してくれ~!!」
「…?ちょっとどうしたの九十九君!?」
オレは猛スピードで洗面所を後にし、結局リーリスの服は流し台で洗う事になった。
「…実は私とチャイムは同じ花から生まれた兄弟なんだ」
「へぇ…お前達は双子だったのか…」
洗った服を干しながら少しおしゃべりをする。
リーリスはと言うと、流石に全裸でうろつかれてはオレが持たないので今はハンドタオルを身体に巻いてもらっている。
それはそうと彼女と二人っきりで話す機会なんてそうそうないだろうから
今の内に彼女の人となりを知っておくのも悪くない。
「一つの花から一つの精霊が生まれるのが普通なんだけど、その双子って言うの?それは滅多に無いのよ」
新事実…あやめちゃんを人間界に返す事ばかりに躍起になっていたせいもあるが…
よく考えるとオレはリーリスやチャイムたちの事を殆ど知らなかった。
「九十九君に最初に話しかけたのがチャイムだった訳だけど…凄いよね…私なんか少し離れた所で怯えていたもの…
まあ…あの時の私は
苦笑いするリーリス。
「ん?ちょっと待て…チャイムは話せたのにリーリスは話せなかった?
それは何故だ?」
「あの場で
九十九君やあやめちゃんよりも前にあの花畑に迷い込んだ人に言葉を習ったのはチャイムだけだから…
でも本当にチャイムは怖い物知らずよね…私には真似が出来なかったもの」
「………」
なるほどね…それでチャイムは精霊界に迷い込んだ人間がどうなってしまうかを知っていた訳だ…当然オレ達より前にあそこに迷い込んだ人物はもう…
少し背筋が寒くなるのを感じた。
次の日…
リーリスにしばしの留守番を任せオレは学校へ行くことにする。
授業中も精霊界とあやめちゃんの事が気になり落ち着かなかった。
放課後には一目散に家に戻りリーリスと合流、コンビニでお菓子や飲み物を買い込んで『神隠しの山』に向かい精霊界へと渡った。
「さてと…何か変化はあっただろうか…」
期待半分…不安半分…。
オレは肩にリーリスを乗せ『精霊指定都市(仮)』の方へと歩を進める。
「…!!なっ…!!これはどうした事だ…!?」
「みんな…!!」
オレの肩からリーリスが飛び立ち猛スピードで先行する。
オレもその後を全速力で追いかける。
そこでオレ達が見た物は…。
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