第3話 検証、二つの世界


 考えてても埒が明かない!!


 どうせこの『精霊界』にはオレらの世界の常識なんて通用しないんだ!!

 ここは色々と実際に行動を起こして情報収集と仮説の実証をした方が建設的ってもんだ。


 まずは一つ確かめたい事が出来た。


 さっきはあやめちゃんを連れてこの花畑から出ようとしたが出口が見つけられなかった…。

 しかし、オレは八年前に一度この場所に来てそして引き返した事がある…。


 もしかすると…オレ一人ならここから出て『人間界』へ戻る事が出来るのではないか…。


「二人とも、ちょっとここに居てくれ…オレは少し出掛けて来る

 戻って来たらどれくらい時間が経ったか聞くからこの置時計を見ててくれないか」


 オレは家から持って来たショルダーバッグから置時計取り出すとチャイムの前の地面に置いた。


「時計? あ~これが人間が時間を確認するために使う道具だね、どう見ればいいんだい?」


 物珍しそうにジロジロと置時計を見回すチャイム。


 参ったな…時間の概念が無い存在に時計の…いや時間についての知識をイチから教えねばならないのか…。


 あやめちゃんは妖精と戯れるのに夢中でイマイチ当てに出来ないし…。


 仕方ない、チャイムには後々協力を頼まないといけないかもしれないので、非常に面倒だが時間という概念と時計の使い方を教える事にした。


 しかしこんな人間なら普通に生活していれば身に付く知識を敢えて他者に教えるなどそうそうないので意外と手こずってしまった…。

 くそぅ…行動を起こす前に疲れてしまったぜ…。


 それでもチャイムはとても物分かりが良く、短時間でしっかりと理解してくれた。


「よし! じゃあ頼んだぜ!」


「うん! 任せて~」


 オレは手を振るチャイムに背を向け、ここへやって来たと思しき方角へと歩みを進める。


「!!!」


 あったぞ!! 来る時に通って来た山道へと続く道だ!!


 あやめちゃんの手を引いて駆けずり回った時には見つけられなかった場所がこうも簡単に見つかるとは…


 オレはそのまま足を進める…。


「…ふぅ~」


 思わずため息が漏れる。

 予想通り『人間界』の山道へと戻って来た…。


 ここへ来た時の時間は正確に覚えてはいないが、

 遠くに見える建物と太陽の位置関係からそう時間が経っていないのが確認できる。


「ここまでは予想通り…問題はまた『精霊界』に入れるかどうかだな…」


 ショルダーバッグからペットボトルを取り出し水を口に含む。

 念のためこちらで休憩がてら10分程時間を経過させる事にした。

 これは『精霊界』と『人間界』の時間経過の比較をする為だ。


「さて…そろそろ戻ってみるか…」


 その場で回れ右をし、おもむろに右足を一歩踏み出す。


 緊張の一瞬…。


「…よしっ!!」


 目の前に広がる景色を見てガッツポーズを取るオレ。

 いとも簡単に『精霊界』の花畑に戻って来ることに成功した!!


「チャイム!! 時間はどうだい?」


 早速チャイムに経過時間を聞いてみた。


「お帰り、早かったね九十九、この時計の秒針がメモリ20個分動いたね」


 置時計の前であぐらをかいたままチャイムが答える。


 20秒…要するにオレがチャイムの居る場所から山道方面に向かった距離の往復分くらいしか時間が経過していない…。


 と言う事は『精霊界』と『人間界』を往復に掛かった時間はゼロ…。

 さっきオレは『人間界』に10数分は居たから、

 オレが『人間界』に居たその間に『精霊界』で経過した時間もゼロ…。


 どちらの世界も独立した時間のことわりを感じる…。


 例えば片方の世界へ行って1日過ごしたとして、元居た世界に戻れば1秒も経っていないと言う現象が起こる…。

 そう…あやめちゃんが陥っている状況その物だ…。


 そして判明した事が一つある…。


 まず一つ目の仮説…オレ一人なら『精霊界』と『人間界』を行き来できる。


 これが実証された。


 しかし何故だ? オレに備わっている能力?

 何だってそんな漫画やアニメの様な能力がオレに?


「どうだい九十九、何か新しい発見は有ったかい?」


 自問自答中のオレにチャイムが話しかけて来た。


「ああ!! もう大アリさ!! そこで今度はお前にも付き合ってもらおうか!!」


「え? あ! ちょっと!!」


 興奮覚めやらないまま次の検証に入るべく、

 オレはチャイムを右掌で鷲掴みにするとそのまま踵を返しまたもや『人間界』へと向かう。


 今度の検証は【『精霊界』で人間界の物質に憑依した精霊を『人間界』に連れ出せるか】…だ


 確かこの辺が境界線だったと思うが…。




「…よし!!」


 今回も『人間界』へ戻って来られた…。


 そして右手に握られているチャイムは…。


「はぁ~やれやれ…君も強引な事をするね~」


 掌を開くとチャイムは鱗粉の様に光をまき散らしながら空へと羽ばたく。


 チャイムも無事こちらへ連れて来ることが出来た。


「でもね…別世界へ移動すると言う事は何が起こるか分らないんだよ?

 たまたま僕が無事だったから良かったけど…」


 宙に浮いたまま腰に両手を当て口を尖らすチャイム。

 確かに軽率な行動だった。


「いや~悪かったよ…」


「まあいいけどさ…せっかく『人間界』に来たからには色々見聞を広げるのも悪くないからね~」


 そう言いながらどんどん先へ飛んでいくチャイム。


「…おい!! チャイム!! どこ行くんだよ?!」


「決まってるじゃないか…しばらく人間界を満喫するんだよ!!

二つの世界を行き来した精霊はまれだからね~」


 そう言い残し彼女(彼?)は猛スピードで跳び去った。


 まさか…チャイムがこんな行動に出るとは思ってもみなかった…。


 オレは慌ててチャイムの後を追った。

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