床ぺろリスト! 魔法? 一発しか撃てませんが?
るーるー
第1話 冒険者は危険に満ちている
「ぜい、ぜい!」
薄い暗闇、光が届かない中に荒々しい息遣いが響く。同じように足音も反響して響く。しかし、乱れた息遣いが一つなのにたいして足音は複数である。それはすなわち乱れた息をしている側が追われる側であることで間違いないであろう。
「くそう! 大勢でくるなんて卑怯だぞ!」
悔しそうな声色を出し追われるものが叫ぶ。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
それに応えるかのように反対の声色で楽しげに応えるのは緑色の皮膚の子供である。
しかし、子供と称したが実際にはここ、迷宮の最上層の住人たるゴブリンである。
一匹一匹はたいして強くはない彼らであるがそれゆえに徒党を組み迷宮にやってきた冒険者を集団でおそうのが常である。そう、今の追われるもののように数十匹のゴブリンに追いかけられる冒険者の姿というのは珍しくはないのである。
「あと場所! 場所も悪いんだからな!」
追われるものが来ている服は真っ黒なローブ、さらに頭にとんがり帽子。 手には小さな指輪と持っている物はどうやら大きな宝石のようなものがはめ込まれている杖のようだ。おそらくは魔法使い。そうなるとこの狭い洞窟内では魔法を使いにくいのだろう。
(とりあえずは広いところまで! この先に広いフロアがあったはずです)
頼みの魔法も狭い場所では使いづらいことを
やがて追われる者が言った通り開けた空間に出ると追われる者はズザザザァ! と音を鳴らしながら静止する。
「ふふふ! まんまと僕の策におびき出されましたね! ゴブリン共!」
大事に握っていた杖を掲げ、先程まで必死の形相で逃げていた人物とは思えないほどの早変わりをすると向かいくるゴブリンの大群へと振り返った。
「ぎゃ?」
追っていた獲物が立ち止まりこちらを向いたことに気づいたゴブリンたちがある程度の距離を開けた状態で静止する。
「追いかけてる通路で僕、ファラ・ノンバラードを倒せなかったことを後悔するといい! 紫の空を切り裂きし雷よ……」
ファラがやたらと大袈裟に杖の先をゴブリンの群勢に向けにやりと笑う。杖につけられた宝石が怪しく輝き光が灯り始める。何やら呪文を唱え始めるとさらには光は大きく輝き、周囲の空気がビリビリと震え、洞窟内も同じように震え、その振動でいくつもの小石が天井から落ち始めていた。
さすがに異常に気付いたゴブリンたちが動揺している間にも詠唱は続き
「
掲げられた杖に集められた魔力がまばゆく輝き雷のような閃光がけたたましい音を鳴らしながら走り抜ける。
強烈な光を放った魔力の塊がゴブリンの体に突き刺さる。それも一体や二体ではなく突き刺さり焦げた臭いが発し始めた時には次のゴブリンに突き刺さるという広範囲殲滅魔法だ。
遅れて空気を震わすような爆音を上げながら雷が突き刺さったモンスターの体が弾けとび、周囲の壁にゴブリンの血が弾け飛び、びちゃりという水音と石が当たったような音が鳴り響いた。
血がむき出しの岩の通路のいたるところに飛び散り雫になり地面へと音を立てながら落ちていく。
完全に音が消えた時には血の雫が垂れる音だけが鳴り響き、静寂に包まれる。そんな中、何かが倒れるような大きな音が鳴り、さらには周囲に砂埃を巻き上げた。
「ふ、ふふふ。ついに…… ついに今までの最高記録に達したよぉ! しかし、あれですね。こう何度も地面に倒れているとそのうち倒れた地面でどこかわかるくらいになるんじゃないですかね」
洞窟内に鈴を鳴らしたようなソプラノの歓喜の声が反響する。ただし、若干くぐもって聞こえているのだが洞窟は暗く、声がどこから発せられているのかはわからない。
「あ、しかしどうしましょう…… さっきの魔法で僕の魔力が空になりましたし」
ごそごそと身動きを取るよう音が聞こえる。もし、この薄暗闇を照らす手段があるのであれば今、洞窟内に横たわっている人物が見えることであるだろう。
体を覆うほどに長い緑の髪。ほっそりとした手足などが見え、髪をかきあげ見える顔は泥だらけではあるものの恐ろしいまでに整ったものであった。これだけで判断するならばだれもが美少女と呼んでもおかしくないものてあった。
ただし、その美少女?は今は芋虫のように体を動かしながら匍匐前進をするかのようにゆっくりと動いていた。
「今日の! ところは! これくらいで勘弁してやりましょう!」
ずりずりと音を立て、体を泥だらけにしかながらファラは洞窟内を進んでいく。さらにはカラカラという音が同じように響く。そちらはどうやら杖らしく美少女? の腰から伸びている紐に繋がっており美少女? が進むたびに引きずられるようにして音を鳴らしているようだった。
「ふふふ、今日は昨日よりも進めましたね」
泥まみれになりながらも美少女? は満足げな表情を浮かべていた。
ファラが這っている所をよく見ると彼女が進んでいるところは溝のようになっておりまるで彼女のために作られたかのようにファラの体にやたらとジャストフィットしていた。
「ふふ、伊達に何度も魔力切れを起こしている訳ではありませんからね。帰り道もバッチリです」
芋虫のように這っているにも関わらず、その声はやたらと誇らしげである。しかし、今の姿はどう見ても人に誇れるような姿ではないだろう。
「しかし、迷宮探索は入り口に帰るまでが迷宮探索です! 油断はしませんよ!」
おそらくは這っていなければ力いっぱいに拳を振り上げている姿が見え思い描かれるほどにその声は力強く大きかった。
しかし、迷宮内ではやってはいけない禁則事項と呼ばれる物がいくつか存在する。
「ギギ?」
「っ⁉︎」
その一つが『迷宮内では大きな声を上げない』と言うものである。理由はない言わずともわかるとおもうが大声が響き渡るとそれに釣られるようにモンスターを引き寄せるからである。
「なんでです! なんでまだゴブリンがいるんです!」
ファラが理不尽だと言わんばかりに声を上げるが、それは迷宮内だからとしか言いようのないことであるがそんなこともわからないほど混乱しているのであろう。大声を上げなければやり過ごすことができたかもしれないのだが。
「ギ!」
当然見つかることとなった。
ゴブリンは這いつくばっている姿を発見すると声をかけ上げ仲間を呼び寄せているようだ。側から見てもファラはとても戦えるような状態には見えないが用心のためだろう。
「ちょ⁉︎ まっ! や、やめろー! やめてー!」
ジリジリと近寄ってくるゴブリンたちに声を上げるが冒険者を殺すことが仕事てあるゴブリンたちは聞く耳を持たない。それどころか楽しげな声さえ出しながら手の中の獲物を弄びながら近づいていく。
「え、エスケープ!」
剣が振り下ろされる寸前でファラが唱えたキーワードに反応し指輪が淡く光りだす。ゴブリンたちが光に驚いている間にも輝き続け、グニャリと空間が歪み、ファラは完全に迷宮内から姿を消したのであった。
◇
「おぇぇぇっ、気持ち悪」
迷宮内から迷宮外へと転移したファラは気分不良で苦しんでいた。ていっても今いる場所は屋外ではなく屋内であり、様々な人たちが利用できるギルド。冒険者ギルドであるのだが。
「何度経験しても慣れませんね」
「いや、普通はそう何度も経験しないのじゃがな?」
椅子に座り気分を落ち着かせていたファラに声をかけてきたのは胸であった。
「あ、セーラさん」
「あ、セーラさん、じゃないわい」
ファラの振り向いた先には胸…… ではなく長い金の髪、さらには尖った耳を持つエルフ、セーラがたっていた。
胸ではなくきちんとした人であった。だが胸と称されてもおかしくないほどの大きさである。
「ファラ、今日は一時間持ったじゃないか? 結局は転移石を使ったようだが」
セーラの眼がファラの指輪へと向けられていた。ファラの指輪についていた宝石は砕け、リングと台座しか残っていない状態であった。
「て、敵に囲まれたから仕方がなかったんです」
「ほほう、なんの収穫もなしか?」
蔑むような目を向けらるダラダラとファラは冷や汗を流していた。
「で、でもゴブリンを十体位倒しました!」
拳を握りしめ誇らしげにファラは告げるがセーラの目は冷たい。
「ふむ、ゴブリンか。なら魔石くらい取ってきたんだろう? もしくはドロップした牙か、どちらでも我らが冒険者ギルドは買い取ってやるが?」
「えへへー」
はにかみように笑うファラを見てセーラはため息をつく。そして顔にはこう書いてある「またか」と。
「いやー、ゴブリン倒すのに必死で魔石なんて一つも拾っ……」
「お前はなんのために迷宮にもぐったんじゃ!」
「あだ!」
ファラの笑いながらの回答中にセーラの拳がファラの頭に落とされファラは涙目になりながら頭を抱えるのであった。
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