がらくた小箱
あくび
平成モダン
1.アイスとあいつ
安いカップアイスを、木のスプーンで食べるのが好き。
木のスプーンって言っても、おしゃれな雑貨屋さんに売ってるようなやつじゃ
なくて、スーパーなんかでアイスを買うともらえる平べったいひょうたん型の
アイツ。
ヘラとか匙っていう方が近いかもしれない。でも、さすがにヘラって呼ぶのは
可哀想だし、匙というほど、非日常感があるものでもないから、「スプーン」
って呼ぶのが私には一番しっくりくる。
何はともあれ、アイツで安いカップアイスを食べるのが好きだ。濃厚で香り高
い、専用ショーケースに陣取ってるようなのじゃなくて、ごくありふれた昔な
がらの安っぽいバニラアイス。
カップアイスは、いつも1番下の冷蔵庫にいれておく。すこし屈んで取り出す
一手間が、よりアイスを美味しくする気がするのだ。
カッチカチに凍ったアイスは、木のスプーンなんかじゃ、とても太刀打ちでき
ないから、しばらく手持ち無沙汰に、トントンと表面を叩いて過ごす。いざ掬
える段になったら、そぉーっと表面を薄く削ぐようにして、アイスをスプーンの上に滑りこませるのが、いつもの食べ方。そして、落ちないように慎重に、おそるおそる口に運ぶのだ。スプーンを近づけるというより、口を近づけるって言う方が近いかもしれない。
試行錯誤の末に、アイスを口に含むと、軽いバニラの味と、ほんのり木の匂い
がする。冷えた金属が唇に当たることも、歯とぶつかってキンキンと音がする
こともない。
安いアイスは、銀のスプーンで食べるより、木のスプーンで食べた方が美味し
い。でも、高いアイスは絶対ダメ。いたたまれなくなったアイツが、尻尾巻いて逃げちゃうからさ。
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