第23話

  二

「待て!」

 急いで甚助は制止した。

 山寺の屋根、煙り抜きに人影を認めていた。

 あれは……源二だ!

 手に弓を持っていた。

 源二は屋根に立ち上がり、きりきりきりと弓を引き絞る。

 一杯に引くと、

 ちょう!

 とばかりに一矢を放つ。

 次の瞬間、ぎゃあと叫び声を上げ、一人の男が仰け反った。胸に深々と矢が突き刺さっている。

 わっ、と男たちは浮き足立った。慌てて弓を取り、矢を番える。と思ったら、もう矢を放っている。矢はひょろひょろと飛んで、屋根に力なく突き刺さった。

 馬鹿者どもめが……。

 甚助は苦りきった。

 源二は屋根に上がっている。上から下へ矢を放てば威力も倍増する。反対に低いところから矢を放っても、中々命中するものではないことは、戦の常識だ。それくらい、知らぬ者がないのか?

 屋根の源二は次々と矢を番え、充分に引き絞ったところで放っている。放たれるたび、次々と悲鳴が上がる。

 その姿を見上げ、あらためて甚助は見惚れていた。

 さすがは、猿の源二! 敵ながら、天晴れである。

 しかし、ここは感心している場合でもない。甚助はそろりと立ち上がり、杉木立を楯に、じりじりと移動し始めた。

 源二の振る舞いに疑念が生じていた。

 あまりに派手すぎる。なにか、他の狙いがあるような……。

 ぐさりと突き刺さった敵の矢を、源二は掴むと弓に番えた。

 ぐっと引き絞り、放つ。

 上がる悲鳴。

「返し矢だ!」

「返し矢にやられた!」

 恐怖の声が上がる。

 古来、返し矢は、必ず命中する、恐るべき矢であると言われている。

 浮き足立つ連中の背後から甚助は叫んだ。

「火矢を放て!」

 甚助の声で、男たちは救われたように火矢の用意を始めた。

 屋根の源二が叫ぶ。

「甚助、やはり、お前か!」

 甚助を狙って弓を引き絞った。

 かつ! と、甚助の隠れている杉の幹に矢が突き刺さった。一瞬、甚助が頭を下げなかったら殺られていたところだ。

 へっ、と甚助はあざ笑った。

 もう源二の手に矢は尽きている。返し矢をしたのが、その証拠だ。

 だが、源二はまだ奥の手を持っていた。

 懐に手を入れる。

 なにをするつもりだ?

 と、源二は懐のなにかを手に一杯に掴み、ぱっと空中に投げ上げた。

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