プランB


 なんやかんやで、危険に晒されているらしいポチ子さんを守ることになってしまいました。

 まあ、それに関してはもう仕方ありません。

 それに私も純粋に一人の友達として……友達? あれ、知り合い? よく考えてみたら数日前にちょっと話した程度の関係なので、そこまで彼女と親しいとは言い切れない部分があります。

 むしろ、出会いの形が形だったので、向こうからは変質者扱いされても文句は言えませんし……まあ、単なる知人レベルであったとしても見捨てる気はないのでご心配なく。


 私も神様から指名されて使命を引き受けた以上、やるべき事はやるつもりです。


 そう、まず私がすべき事は、責任を持って――――、







 ◆◆◆







「ああ、うん、分かった分かった。キミも大変だね。病院ならそこの通りを右に進んだ先にあるから、お大事に」


「ちょっ、善良な一般市民からの通報ですよ!? もうちょっと誠実な対応をですね……ちっ、ダメみたいですね」


 朝食後、ミアちゃんの案内で近所にある衛兵隊の詰め所に通報しにいったのですが、あっさり門前払いを喰らってしまいました。


 公的機関の力でこの街に入り込んでいるはずの暗殺者の捜査・対応をしてもらえば、私は何もせずに事態が解決すると思ったのですが、そう甘くはありませんでした。残念無念。


 いくつか説明する上でのハードルはありましたが、特に問題となるのは情報源。

 いくら信心深いこの世界の人々でも、いきなり「神様」を根拠に持ち出して話を進めようとしてくる人間は、かなりアレ目な感じに映るようですね。

 親切に最寄のアタマの病院の場所を教えてもらっちゃいましたよ。

 なんだか対応が手慣れている風でしたし、もしかしたら(真偽はさておき)神様がどうのこうのと言って押しかけてくる危ない輩はそれなりにいるのかもしれません。


 私としては困るのですが、本来ならそれが普通の対応でしょう。こんな事を言われて何一つ疑わなかった我が友人は、かなり珍しい例外と考えておくべきですね。

 

 

 まあ、ダメなものは仕方ありません。

 頭を切り替えて次の作戦にいきましょう。



「そんなワケで、プランBに移行しましょう」


「プランBってどんなの?」



 ゲーマーとしては、ここで「あ? ねぇよそんなもん」と言いたいところですが、こういうのはネタが相手に伝わらなければ無意味ですし、今回に関しては本当に別案があるので状況とセリフが合致しません。言いたいのをグッと堪えます。



「いいですか、プランBというのはですね……」



 プランB。

 それは、単純にこの街に侵入していると思しき暗殺者を、相手が何かするより前に見つけてしまおうというアイデアです。

 もちろん、普通なら簡単ではありません。

 このマッスルの街の正確な人口は存じませんが、面積や建物の密度からするに、少なくとも数千人規模。もしかしたら一万近くいるかもしれません。北海道の夕張市並みです。いえ、あっちは土地が広すぎるので人口密度を考慮すると比較対象としてはイマイチでしたね。


 とにかく、それだけ広い街であれば、服装や髪型をちょっと弄れば簡単に街に溶け込めるでしょう。ただし、普通の人間であれば……ですが。


 これまでに得られた情報からすると賊は標的と同じ獣人族。

 国ごとに住んでいる種族が全く違うこの世界では、異種族というのは非常に目立ちます。別に迫害対象だったりはしないみたいですが、基本的にあまり交流がないのでしょう。住む地域が違うのも、種族ごとによって住みやすい環境が違うのが主な理由らしいですから。


 耳や尻尾くらいなら帽子や服装で隠せるかもしれませんが、どうしても不自然な厚着になるでしょうし、体型そのものを隠蔽しようとすれば違和感は一段と大きくなるはずです。

 もしポチ子さんのお仲間側だったら、わざわざそんな面倒臭い変装はしないでしょう。

 つまり、不自然な変装をしている獣人族の方がいれば、それはつまり非常に怪しい存在。それだけで犯人と断定はできませんが、有力容疑者と見てもほぼ間違いありません。

 あとは、捕まえるなりポチ子さんの帰国まで見張っておくなりすれば守り切ったことになるのではないでしょうか。痛いのとか怖いのは嫌なので、なるべく荒事は避ける方針でいきたいですが。



「でも、リコちゃん。どうやって変装してる人を探すの?」


「ふふふ、いい質問ですね」



 ミアちゃんの疑問も当然でしょう。

 ただ当てずっぽうに探していては何日かかるか分かりません。

 宿屋を中心に聞き込みをするという手も考えましたが、無人の廃屋や隠れ家などの潜伏用の場所を用意してある可能性もあります。

 無制限に人手や時間を使えるならともかく、当て所なく捜し歩くのは良い手とは言えません。




 しかし、心配ご無用。

 私達には頼れる仲間がいるのです。



「警察犬というのを知っていますか?」


「けー……なぁに?」



 犬の嗅覚や聴覚は人間の数万倍とも言われています。

 そんな犬に特殊な訓練を施した警察犬は、優秀な犯罪捜査の道具……いえ、時に人間以上に役立つ立派な捜査官と言えるでしょう。前にテレビで見たので間違いありません。私は詳しいんです。

 まあ、ミアちゃんの反応を見る限り、この世界には存在しないみたいですが。



「へえ、リコちゃんの世界には、そんな凄いワンちゃんがいるんだね。たしかに、そのケーサツケン? がいれば、獣人の人も探せるかもしれないけど……」


「大丈夫。私に良い考えがあります」



 訓練された警察犬がいれば、普通の人間とは違う匂いを辿ることなど朝飯前でしょう。

 問題は肝心の犬がいないことですが、それに関しては私にアイデアがありました。


 要は、鼻と頭が良ければ別に犬である必要はないのです。








「――――というワケで、頑張ってくださいね、カトリーヌ。ポチ子さんの命は貴女にかかっているのです」


『モゥ?』


「これで、いいのかなぁ?」



 ふふふ、カトリーヌの牛離れした知能に任せておけば、もう事件は解決したも同然。私とミアちゃんを背に乗せたカトリーヌは、そのままのっしのっしと市街地へと歩き出しました。



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