魔道車でGO
「御世話になりました」
朝早く、身支度と朝食を済ませた私はミアちゃんと共にお屋敷を後にしました。メイドさん達にお別れを言い、待ち合わせ場所へと向かいます。
今回は旅装という事でミアちゃんの私服のようなお嬢様感のあるヒラヒラした服ではなく、昨日購入した動きやすい服装を着ています。といっても、いつでも魔法を使えるようにお馴染みのトレーニング着の上から全身がすっぽり入るような大きめのローブを着ているだけですが。ポケットオが沢山ついていて、厚手でフード付き、温かくて水を弾き頑丈さがウリだという実用一辺倒の品物です。
今回は山登りをする可能性もあるので、荷物の中には分厚い手袋やマフラー等の防寒具もいくつか用意してあります。魔法を使えば筋肉で暑さ寒さはガード出来るらしいのですが、私はともかく他の方が魔力切れで凍死したりしたら困りますし。
それにしても、精々が三、四日程度しか滞在していないというのに、もうずっとこの家に住んでいたような気分です。ご飯も美味しいし、お風呂もあるしで、快適すぎたせいでしょうか。過酷さとか悲壮感といった言葉とは無縁の至れり尽くせりの生活って最高でしたね。いっそ、この家の子になりたいぐらいですよ。
「それもいいかもね、そうしたらわたしがお姉ちゃんになるのかなぁ。あ、でも同い年だから妹かも? そうだ、帰ってきたらお父様に養子縁組の手続きをしてもらおうか?」
「いやいやいや」
この家の子になりたいというのは一種の言葉のアヤなので、そこまでガチで考えられても困りますよ。貴族生活とか上辺の良い所取りをするならまだしも面倒なしがらみも多そうですし、あくまで友達として遊びにくるぐらいが気楽です。
「そっか、残念」
かなり天然気味のミアちゃんですが、養子縁組の件は流石に冗談だったようで軽く流してくれました。私は一人っ子なので、小さい頃は人並みに兄弟や姉妹に憧れのようなものがあったりもしましたが、それも昔の話です。というか、この世界で家族を作るほど本格的に根を下ろしたら本当に帰る気をなくしそうです。
◆◆◆
「あそこが待ち合わせ場所ですね」
四方を外壁に囲まれているこの街には東西南北に大きな門があります。本日の待ち合わせ場所はその中の北門前の広場です。人間領のほぼ北端であるこの街の北には小さな農村がいくつかあるだけなので、他の門に比べると人通りはかなり少ないようです。
「やあ、おはよう」
「よう、嬢ちゃん達時間通りだな」
「あ、おはようございます」
待ち合わせ場所にはロビンさんとジャックさんが既に待機していました。ロビンさんは昨日はお屋敷に帰っていたはずなのですが、私達が起きた頃にはもういなくなっていました。どうやら、彼の横に堂々と鎮座する物を用意する為に早起きしていたのでしょう。
「これが乗り物ですか、馬車ですかね?」
私の声が疑問系だったのは、その馬車がこれまでに何回か見た他の馬車よりもずっと大きかったからです。家屋ほど、とまではいかなくても十トントラックくらいの積載量はありそうです。基本は木造のようですが、要所要所に金属の補強材が入っていてかなり頑丈そうです。
「これ……こんなの曳ける馬いるんですか?」
大きい分だけかなりの重量がありそうです。たとえ二頭や三頭がかりで曳いてもまともに動くんでしょうか?
「ああ、大丈夫。これは馬車じゃないからね。あ、来た来た」
ロビンさんが見ている方向に視線を向けると、何故かリーズさんが大きな牛を連れてやってきていました。
「ほら、ロビン連れてきたぞ、名前はカトリーヌだそうだ」
「そうか、よろしくなカトリーヌ」
よく分かりませんが、あのカトリーヌとかいう牛がこの車を曳くんでしょうか。つまりコレは馬車ではなく牛車だったと? でも、牛車ってのんびりしたイメージがありますし、そもそも馬だろうが牛だろうが一頭だけで動くんでしょうか?
「じゃあ、よいしょっと」
疑問顔の私をよそにロビンさんは、牛車(?)の中にカトリーヌを抱き上げて積み込みました。内部の床は薄い鉄板と革で補強してあるので牛が入っても大丈夫……ではなく。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、コレの動力ってなんです?」
「え、俺達だけど? これは魔法の力で動かす魔道車だからね」
自分達が動力。
魔法の力で動かすって……要は人力車じゃないですか。もしかして私も引っ張らないといけないんですかね。牛が乗った車を人が曳くとか、生類哀れみの令を出した徳川綱吉もビックリですよ。
「……じゃあ、その牛は?」
「ああ、カトリーヌがいれば旅先でも新鮮な牛乳が飲めるからね」
カトリーヌ、まさかの乳牛でした。そういえばよく見ればお乳が大きいですね。この人、そこまでしてたんぱく質を摂取したいんでしょうか。ジャックさんも良い笑顔でよしよしと頷いています。ははっ、さてはこの人達アホですね。
「じゃあ、帰ってきたら今度こそ式を挙げよう」
「ああ、なるべく急いで戻ってくるよ」
呆れている私をよそにロビンさんとリーズさんは人目も憚らずに二人の世界に入っています。そういえば一昨日の
◆◆◆
一人ずつ交代で魔道車を引っ張る予定だそうですが、まず最初はロビンさんから。綱やら革やら何やらで出来た固定器具を全身各所に装着していきました。この器具、人間の走力のエネルギーが車体に伝わりやすい形状になっているそうですよ。後で自分がやるのでなければ純粋に関心していたところです。
私とミアちゃんとジャックさんの三人とカトリーヌはまずは車内で待機です。巨体のカトリーヌがいる上にかなりの量の荷物がありますが、それでもまだまだスペースに余裕があります。
狭い車内に長時間ギュウギュウ詰めになる事も覚悟していましたが、これならば道中は結構快適かもしれません。積んである荷物の中に手頃な大きさのクッションがあったので、それをお尻の下に置いて椅子代わりにしました。
「じゃあ、出発だ!」
一人魔道車の外にいるロビンさんの声が聞こえ、その直後急激な加速がかかりました。発車ではなく発射という言葉が似合いそうな凄まじい勢いです。
「ちょっ、速すぎませんか!?」
「お兄様はりきってるね~」
「うむ、感心感心。なかなかよく鍛えているようだ」
慌てているのは私だけのようです。
カトリーヌですらノンビリと欠伸をしていますが、これに関してはおかしいのは私以外のはずです。このスピード、時速何十キロ出てるんですかね、いや何十キロで収まっていないかも。一応道はありますけど、アスファルトじゃないむき出しの土の上なので揺れが凄まじいですよよよよよ!?
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