二人でお買物


「お、あのナイフ、デザインが格好いいですね」


「ちょっとちょっとリコちゃん、そんなにナイフばっかり何本もいらないってば」



 おっと失礼。

 旅に必要な物の買出しに出て色々なお店を回っていたのですが、日本ではあり得ないレベルの刀剣類の充実についつい我を忘れてしまいました。その手の品に興味がないミアちゃんはすっかり呆れ顔です。


 こういう刀剣は戦闘では使えないんですが、コレクションアイテムとして欲しくなってしまいます。実用性がないどころか逆に使いにくそうなゴテゴテした装飾剣とか、趣味悪すぎて最高ですよ。数は少ないながらもこういう武器が存在しているという事は、きっと私と似たようなセンスの持ち主がいるのでしょう。

 後ろ髪を引かれますが、今回は調理用の包丁を二本と、細めの雑木くらいなら切り払えそうな鉈っぽい刃物だけにしておきました。



「あとは食料品ですね。食料といっても嗜好品メインですけど」



 一番最初に二人分購入して早速有効活用しているリュックサックの中は、まだ幾ばくかの余裕があります。今のところは魔法なしでも担げる重さですし、このまま食材品を見に行っても問題ないでしょう。



「とりあえず、日持ちしそうな乾物系ですか。飴玉なんかもいいかもしれません。調味料は砂糖と塩と、できれば胡椒も。油はどうしましょうか?」


「うーん、わたしはお料理は分からないから、調味料とかはリコちゃんにお任せで……」


「そういえば、ロビンさんは料理はどうなんですかね?」


「お兄様は演習で作った事はあるって言ってたけど、あんまり得意じゃないみたい」



 となると、道中での食事当番は私がやる事になる可能性が高いですね。ジャックさんは出来るかどうか分かりませんけど、地位の高い人ってあまり自分で料理をするイメージがありませんし。



「ならば、必要そうな物は多めに買っていきますか。余っても足りないよりはマシですし」



 食材の現地調達が出来るとは限りませんし、余ったら帰ってから消費すれば問題ないでしょう。



「ビタミンの補給にはやっぱり柑橘ですかね。果物屋さんはどちらです?」



 以前に読んだ漫画の知識ですが、長期間のビタミン欠乏は壊血病の原因になるそうです。英国人がライミーと呼ばれるのも、航海中にいつもライムを齧っていたのが語源だとか。今回はそこまで長期の旅ではありませんが、栄養バランスがいいに越した事はないでしょう。


 もう夕方近い時間なので品切れになっている物もありましたが、スダチより少し大きめで甘みの強い柑橘と、ついでに個人的な興味から地球では見た事のない珍しい形の果物を購入できました。名前はドラゴンフルーツだそうなんですが、地球の同名の物と違って小さめのドラゴンっぽい形なんですよ、本当に。最初は作り物かと思って二度見しましたが、その形状で樹に生るそうです。






「あとは干し肉、干し魚、ドライフルーツ……ナッツもあるんですか、それもくださいな」


 果物屋さんに続いて乾物屋さんでこれらの品を購入。これらは最悪そのままかじって食べる事もできますし、水分がないので軽量で持ち運びやすいメリットもあります。



「じゃあ、次は調味料を見に行きますか」


「その後はお菓子だよね?」



 果物屋さんはともかく、乾物屋さんはミアちゃんには退屈だったようです。それとなく催促してくるのは、まるでスーパーマーケットでお母さんにお菓子をねだる子供のようで微笑ましいものがあります。

 私は学校帰りに制服のままスーパーに寄るパターンが多いんですが、そこでよく見る光景ですね。結局頼んでも買ってもらえず落胆した子供の目の前で、中学生の財力を見せ付けるかのようにお菓子の大人買いをすると、僅かな優越感と凄まじい虚無感を同時に味わえるのでオススメです。


 それはさておき、



「では先にお菓子を買いに行きましょうか? 重い物が後のほうがラクですし」


「うん、じゃあ行こう。あっちの通りに可愛いお店があるのっ」



 砂糖とか塩とか結構重いので、調味料を後回しにしたほうがラクだというのも本当ですが、ここまで荷物持ちに徹してくれた友人へのねぎらいも必要でしょう。そんなワケで買物の順番を変更する事にしました。


 店内で食べていくスタイルのお店はもう経験済みですが、持ち帰り専門のお菓子屋さんというのは私も楽しみです。どうせなら異世界感のある珍しいお菓子とか見てみたいですね。


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