魔法使いに会いたい


 「ご馳走さまでした」


 自分で狩った獲物の味は格別ですね。


 巨大イモムシは質感から予想した通りエビのようなお味で実に美味しゅうございました。野菜と一緒にバターで炒めた料理をご馳走になったのですが、エビチリならぬイモチリとかにしても美味しそうです。この世界に豆板醤があると良いのですが。


 この世界から帰る手段を見つけたら、あのイモムシを何匹か連れ帰るのもいいかもしれませんね。新種の食材として養殖したら儲かりそうです。


 そういえば、ここまで連れてきてくれたおじさんは村の村長さんでした。食材持ち込みとはいえ不意の来客に料理を振る舞い、新品の服とお小遣いと住む家まで提供してくれるなんて聖人でしょうか。



 「いやいやいや、そこまではせんよ?」


 「HAHAHA! 軽いジャパニーズジョークですよ」


 「その『じゃぱにーず』がまず分からんのだけど……」



 交渉の結果、娘さんのお古のワンピースを一着と今晩寝る場所までは勝ち取りましたが、今後の生活費は自分で稼がないといけないようです。


 イモムシの体液が染みた体操服は村長の奥さんに洗濯してもらって今は乾かしている最中です。不用意に目立ちたくはないので、今後はパジャマ代わりにでもしますかね。


 ちなみに、私の素性に関しては正直に話しても怪しまれると思ったので、宇宙人にアブダクトされて、気付いたらあの草原に立っていたということにして誤魔化しました。深く追求されたらタコ型宇宙人に脳を操作されたせいで記憶が混乱しているということで押し切ることにします。


 話に信憑性を持たせるために、夜中に家を抜け出してから先程の草原に戻ってミステリーサークルを作っておけば完璧でしょう。




******************




 「ほう、やっぱりいるんですか、魔法使い」


 明日から何をするにしても、まずは情報を集めないといけません。村長さんとご家族の皆さんにこの世界の事を尋ねると、早々に魔法使いの存在が挙げられました。


 いいですよね、魔法使い。


 私はネトゲは一つのタイトルをやり込む方ではなく、色々なゲームを飽きるまでやる広く浅くという遊び方が多いのですが、大抵のゲームでは魔法使い系の職業を選択します。広範囲高威力の魔法で殺戮の限りを尽くすのには、例えようもない爽快感を感じますね。まあ、それをそのまま言ったら、同じゲームをプレイしていた当時のフレンドからドン引きされて連絡が来なくなりましたが、それも今となっては良い思い出です。


 せっかくファンタジーな世界に来たんですから、出来ることなら自分でも魔法を使ってみたいですし、それが無理でも魔法使いに会ってみたいです。頼んだらサインとかもらえるんでしょうか?



 「この村に魔法使いっているんですか?」


 「いや、大抵は軍隊に入るって話 だから、こんな田舎の村にはおらんよ」



 村長さんに聞いてみましたが、残念ながらこの近所には魔法使いはいないようです。彼もそこまで詳しいわけではないようですが、魔法使いの才能はとても稀少で、軍隊の中でもエリートの高給取りだそうです。



 「ふむ……」


 そういえば、すっかり忘れていましたが、私には何かチート的な能力なり才能なりが備わっていないものでしょうか?


 テンプレ的な話の流れからいくと、私に貴重な魔法使いの才能があったり、最初っから高度な魔法が使えたりするんじゃないかなと思うのですが、残念ながらソレを確認する手段がありません。



 「やはり、一度は魔法使いに会わないといけませんね」


 本職の魔法使いならば他人の才能を見抜くことが出来るかもしれません。それがダメでもお土産にサインを貰いたいですし、ひとまずは魔法使いが住んでいるような大きな街を目指すとしましょうか。


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