ウマノケタケ(Marasmius crinis-equi)

みなさんは普段、どんな歯ブラシを使っているだろうか。近頃では大型のドラッグストアなどにゆくと、どの店にも大抵は歯ブラシのコーナーが設置されており、様々な歯ブラシがずらりと並んでる光景を目にする。その選択肢はメーカーのみならず、ブラシの硬さや大きさ、ブラシの毛先の形状、ハンドル部分の色や形などなど、あげだしたらキリがないくらいに細かく種類分けされている。あまりに種類が多すぎていったいどれを選んだものかといつも悩んでしまうので、ぼくはまったくの好みだけで種類を固定して買うようにしている。その種類のものが自分の歯にあっているかなどというこだわりは、もうどうでもよくなっている。


どうでもよいついでにどうでもよい情報を付け加えると、ぼくはサンスターの「G・U・M(ガム)」派、ブラシの硬さは普通で、ブラシの大きさは小ぶりなものを好む。けれどその時々の気分によって急に変えてみたりすることもある。なぜなら、そこまで歯ブラシにこだわりはなく、どうでもよいからである。けれどサンスターの「G・U・M(ガム)」だけは譲れないとだけ言っておこう。


さて、普段使いの歯ブラシの話であったが、ドラッグストアなどで売られている安価な歯ブラシの多くがブラシ部分に化学繊維を使っている。ある情報筋によれば、化学繊維の歯ブラシは歯茎や歯のエナメル質への負担が大きいため、あまり歯にはよろしくはないのだとか。じゃあいったいどんな歯ブラシがよろしいのかと言えば、世の中には動物の毛を使った歯ブラシがあるのだ。ちなみにぼくは一度だけ、そのような動物の毛を使った高級歯ブラシを使っていたことがある。それはドラッグストアの歯ブラシコーナーでサンスターの「G・U・M」と迷いに迷った挙句に購入してきたものではなく、ある時に人から頂いたので使ってみたまでなのだが、じゃあその高級歯ブラシは何の動物の毛を使っているのかと言えば、「馬の毛」で作られたものであった。


というわけで、今回は「ウマノケタケ」の話である。


ホウライタケ科ホウライタケ属のきのこで、学名を「Marasmius crinis-equi」、漢字で書くと「馬毛茸」であろうか。傘の径は0.6cmから0.7cmと非常に小さく、色は白色から黄褐色へと変化する。柄の長さは1cmから10cmほど、黒色で髪毛状をしている。食毒は不明であるが、食べるには不向きの部類に属するであろう。


さて、少しだけ馬の毛の歯ブラシの話題に戻る。動物の毛が使われている歯ブラシのことを少し調べてみると、その多くは「馬」と「豚」の毛によって作られているということである。馬の毛といえば鬣のような部分なのかなあと想像がつくのだが、豚と言われると「はて?」と疑問符があがる。豚の体に歯ブラシに使えるような毛が生えていたであろうか。あるいは歯ブラシ用だけのために「毛豚」なるものが中国あたりで飼育されていて、その毛豚の剛毛が利用されているのかもしれない。また動物の毛の歯ブラシには、馬や豚以外にも、その他のレアな毛で作られたものもあるようで、ぼくは一度「狸」のそれが店先に並んでいるのを見たことがある。そして、どの毛のものにせよずいぶんと丈夫なため、丁寧に使えば一本でも生涯にわたって末永く利用できるとのことである。ちなみに馬の毛の歯ブラシは、はじめのうちは使い慣れないためか柔らかすぎるように感じたのだが、慣れてくると、化学繊維のものとは違って優しさがあり、歯や歯茎にいたって心地よいものであった。


まあそれにしても、化学繊維の歯ブラシが歯に悪いのであれば、なんであんなに大量の化学繊維の歯ブラシが幅を利かせているのであろうか。ましてや化学繊維の歯ブラシは思いの外すぐに駄目になってしまう。そして駄目になるから何度も何度も買いなおさなければならない。歯に悪い歯ブラシに何度も何度もお金を払って、挙句の果てに自分の歯が駄目になってゆくという、歯ブラシの役割とは真逆の構図が成り立っているかに思える話である。こんなことを書いていたら、化学繊維の歯ブラシで歯を磨くのが無意味なように思えてきさえした。文明がもたらしたものの多くは結局のところ人間を破滅へと追いやる道具でしかないということであろう。もはやサンスターの「G・U・M」派だ!などといっている場合ではない。再び動物の毛の歯ブラシを手に入れて、毛を頂いた動物たちへの感謝を忘れずに、自らの歯共々死ぬまで大切に使わねばなるまい。


あっ、そういえば大手の歯ブラシメーカーには動物の毛を使っていそうな会社名のところがあったな、あそこの歯ブラシならば、あるいは化学繊維ではなくて百獣の王の毛とか使っているのではなかろうか。すぐに問い合わせねばなるまい。


みなさん、歯を大切に。

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