松江城マッシュルームマップ

アイカワタケ(異形体ヒラフスベ型)(Laetiporus versisporus)

 きのこを探して森をさまよい歩いていると、「これ、たぶんきのこかもなあ。」とは思うものの、きのこ初級のぼくにとっては、それがきのこなのかどうか半信半疑の物体がまだまだ数多く存在する。先日もとある樹幹に、何やら汗だくの得体のしれない物体を発見して足を止めた。ふとその周囲の樹にも目をやると、たくさんの同じような物体がやはり汗だくでへばりついている。きのこにあまり関心のない頃のぼくであれば、気にはなりつつも素通りしているところだが、今のぼくはもちろん藪をかき分けてその物体に近付いてみる。すると、ぼくのゴーストが囁くのである、「これは、きのこだよ。」と。


 というわけで、今回は「アイカワタケ(異形体ヒラフスベ型)」の話である。


 タマチョレイタケ目ツガサルノコシカケ科アイカワタケ属のきのこで、学名を「Laetiporus versisporus」、漢字で書くと「間皮茸(平贅)」である。今回発見したこの個体、つい最近まではアイカワタケとは別種のヒラフスベという種類であるとされていたのだが、DNA鑑定の結果アイカワタケと同種であることが判明したため、アイカワタケの名に統合されることとなった。というわけで、アイカワタケには異なる二つの形体があるのだが、現在は二つともアイカワタケとされている。このボコボコと膨らむ饅頭のような異形体を形成するのはヒラフスベ型のアイカワタケであり、もう一方はといえば、傘と管孔を持ついわゆるサルノコシカケタイプの従来のもの、アイカワタケ型アイカワタケである、なんだかややこしい話だ。


 フリーザの別形態はDNA鑑定を待たずともなんとなくその容姿でフリーザであるとわかるのだが、セルの別形態、とくに第一形態と最終形態はずいぶんと違う容姿をしている。第一形態は昆虫タイプだが、最終形態に至ってはヒューマンタイプになってしまっている。アイカワタケにおいての別形体も、どちらかと言えばセルの様式に近いということになる。


 同種であってもずいぶんと形体を異にしているのであれば、今までのとおりに名前を分けておいてもよいのではないかと思うのだが、一種類に名前が統合された経緯については、何かそうせざるをえない大人の事情があったのであろう。


 食毒に関して言うと、アイカワタケは幼菌の頃であれば食用にも出来るが、多くのきのこがそうであるようにこの種も生食は中毒の原因になる。このヒラフスベ型、見ようによっては肉汁のしみだした蒸したての肉まんのようにも見て取れるため、そのままガブリと齧りつきたい衝動を起こす方もおられるやもしれないが、ご注意いただきたい。


 まあそんなわけで、FBIの犯罪捜査にばかり使われていると思いがちだったDNA鑑定が、ついに菌類の世界にまで及んでいるとは。きのこもうっかりしていられない世の中になったものだ。


「DNA鑑定の結果が出たぞっ!ヒラフスベとアイカワタケは同一菌だ、すぐに連行しろ!」

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