ベニヒガサ(Hygrocybe cantharellus)

 ぼくは男の子なので、いままで日傘というものをさして出歩いたことがない。別に男の子だからといって日傘をさしてはいけないという法律なんてないのだけれど、なんとなく世間の流れに飲まれてしまっていた。でも近年はさしたくて仕方がない。だって真夏の炎天下の直射日光を避けるには最適の道具ではないか。ここ何年かは夏の日差しを防ぐために、メキシコ人が冠っているみたいなツバの広い麦わら帽子を愛用していたのだが、日向以外の場所ではかさばって仕方がない。そして目立って仕方がない(日常的に麦わら帽子を冠っている人がなぜ世間にはあれほどいないのか?)。日傘だったら日陰では閉じればよいし、いざとなったら杖にも武器にもなるし、一石三鳥ほどもあろうに、麦わら帽子は日陰に際しても閉じることは出来ず、杖にも武器にもならないではないか。あるいはツバに刃を付けておけば、某英国諜報部員が活躍する映画シリーズに出てきた悪役の持つシルクハットのような武器にはなりそうで、それはそれで心惹かれるが。まあなんにしても、これからの時代は男子たるもの日傘を常備せねばなるまいと思う。


 というわけで、今回は「ベニヒガサ」の話である。


 ヌメリガサ科アカヤマタケ属のきのこで、学名を「Hygrocybe cantharellus」、漢字で書くと「紅日傘」である。高さは3cmほどにしかならない可憐で小さなきのこだが、その鮮やかな紅色にはるか遠くからでも目を奪われる。食毒は不明であるが、酢の物に入っていたらさぞかし美しいであろう。


 日傘に話を戻そう。大学の時分に、同級生に男の子で日傘を常備している友人がいた。真夏などはキャンパス内で優雅に漆黒の日傘をさして歩いている姿をよく見かけたものだ。彼は女の子も好きだったが、男の子も好きな傾向を持ちあわせており、ぼくは一時期気に入られていて、日傘の相合傘でキャンパスをふたりで歩いたこともあった。それ以上は特に何もなかったと一筆記しておこう。彼はもしかしたら、というかおそらくそれ以上を求めていたのかもしれないが、ぼくはいたって女の子にしか興味が無い質なので、まあさすがにそれはちょっと。その時さしていた日傘はレースの付いた真っ黒い傘だったが、相合傘の際は、端から見たら紅日傘のような色をしていたかもしれない。


 まあそれはそれで美しいと思うけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る