トガリベニヤマタケ(Hygrocybe cuspidata)

 雨が降るときのこたちが乱舞するので願ってもないことなのだが、きのこが雨に濡れてしまうと判別がちと困難になる場合がある。例えば雨のために濡れてしまった傘なのか、あるいは傘に粘質を持っているきのこなのかがわからなくなったり、傘の色が雨の水分によって落ちたり変色してしまったり、ずいぶんと厄介になってくる。それでなくてもそもそも容姿が似通っているきのこなんて、雨が降ったらもうおしまい、これで終いの金毘羅さん状態なのである。


 というわけで、今回は雨の日に見つけたきのこな上に、よく似ている種類がいくつかあるので、判別に困った「トガリベニヤマタケ」の話である。


 ヌメリガサ科アカヤマタケ属のきのこで、学名を「Hygrocybe cuspidata」、漢字で書くと「尖紅山茸」である。成菌になるとカサの径が1.5cmから7cmほど、柄の長さが4cmから9cmほどになる。このきのこにはアカヤマタケとかヒイロガサといったけっこう似ているものが存在していて、いつ見てもさてどれだろうなあと迷ってしまう。


 高校生の時分に双子の同級生がいたことがあったのだが、ぼくはその二人と仲がよかったので二人の見分けが難なくついた。しかし他の生徒や先生は「まったく見分けがつかない!」と言っていた。確かに二人はよく似ていたのだが、見分けがつかないことはないだろうとぼくはずっと思っていた。けれど、違うクラスに振り分けられたその二人が、ふざけてよく入れ替わっていることがあったけれど、誰一人気付いていなかったのにはちょっと驚いた。ぼくには完全にわかっていたから面白くて仕方なかったし、コピーロボットみたいなことが出来て便利だなあとちょっとうらやましかったことを覚えている。


 この話をきのこの判別に置き換えてみるとわかるように、似ているきのこを完璧に見分けるには、そのきのこと仲よくなればいいんじゃないかということに気が付いた。


 な〜んだ、簡単なことだ。

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