『貴方にかける最後の言葉』
Natsu
優しい嘘
「行きたいところがあるんだ。」
あなたはそう言って私をバイクの後ろに乗せて懐かしい道を走った。
爽やかな新緑の香りが心地いい季節だった。
「ずっと気になってて。良かったら試しに付き合ってみない?」
適度な明るさの茶色の髪は短めにカットされ、とても爽やかなのが印象的。
悪くない。
そう思って、付き合い始めた。
私はなぜか長続きがしない。
極端に短いわけでもないから、それなりに思い出も出来て、それが余計に残酷だとよく言われる。
しかし、仕方ないではないか。
今度こそ…と、毎回そう思って付き合うのに、半年くらいすると、何か違うと感じるようになってしまうのだから。
違うと、実感しているのに付き合い続ける方が酷いではないか。
私は嘘は嫌いだ。
だから、ここ最近は付き合うことにも億劫になってしまって、一年以上誰とも付き合っていなかった。
しかし、今目の前に居る彼は今までに居なかったタイプで、なんだか「いいな」と思ったのだ。
バイク好きな彼だったが、安全運転していても危険なのは変わりないからと、あまり私を乗せることはなく、電車や、時にはレンタカーで遠出することもあった。
梅雨の時期はビリヤードに通った。
もともとは私の趣味。
彼は付き合いでやったことがある程度だったが、勘がよくすぐに巧くなった。
夏は新潟まで花火を見に行った。
東京では見ることがない、大きな花火は音も体の芯まで響き感動した。
映画を観て感想を言い合うと、たいてい意見は一致するし、周りからは相性最高にイイね!と言われた。
確かに、喧嘩もしないし、意見が割ることもなく、上手くいっていたと思う。
優しい彼。
何でも、そつなく、こなしてしまう彼。
割れることのない意見。
や
さしいキス。
愛が篭ったSEX。
無難な遊び。
普通の付き合い。
変わらない日常。
あぁ、足りない。
私が欲しているモノ。
変化。 刺激し合い成長し合うこと。
違う。
この人では、ない……。
そう、気づいてしまった。
楽しかった。
意見が一致して嬉しかった。
でも、それだけでは、物足りない。
私が、彼が、これ以上に上がることはない。
同じ位置にただ、横に並んで居るだけ。
嫌いじゃない。
ただ、愛してもいない。
刺激し合うこと、成長し合うことを恋人に求めなくても、他の付き合いで探せばいいじゃないかと、友達に居ればいいじゃないかと言われるけれど。
ダメなのだ。
季節は落葉樹を、紅に染める頃。
私の変化に気づいたのだろう彼は、付き合い始めて2回目のバイクに乗る機会を私に与えた。
「行きたいところがあるんだ。」
「うん。」
私はただ頷いてヘルメットを受け取り被ると、バイクの後ろに跨り、彼のしっかりと腕を巻き付けた。
それを確認すると、バイクは走り出す。
覚えている。
初めてのデートで、初めてバイクに乗せて連れて行って貰った道。
山道のカーブをゆったりと登ってゆく。
十分時間を掛けてたどり着いたちょっとした小高い山ににある公園。
「懐かしいね。」
私は私はヘルメットを外して言葉に出した。
「本当はもう少ししてから来たかったんだ。」
少し残念そうな表情で言う彼。
「本格的に紅葉が始まると、ここからの景色は最高何度だ。」
うん、覚えているよ。
初めてここへ来た時は新緑の青々とした空気に満たされていて、紅葉の時期にまた来ようと彼は言ったのだ。
「俺じゃダメなんだね」
寂しそうに囁く彼。
「うん……ごめん。」
小さく私は謝る。
「ビリヤードどんどん、うまくなってくから楽しかったよ。花火も、いろんな映画観たことも。優しくたくさん愛してくれた。嫌いじゃない。」
「うん。」
「本当に、楽しかった、心から。」
「うん。」
私の言葉を聞きながら、ただ、頷き、優しく、しかし寂しそうに笑みを浮かべている。
「今でも、好きだから。」
「友達として?」
「うん…そうだね。」
寂しい笑が私にも伝染する。
「今までありがとう………」
「俺もありがとう。最後に1つ聞いていい?」
「ん。」
「俺のこと、愛してる時はあった?」
そう聞いてきた彼にかける最後の言葉は…
「……愛してたよ。」
優しい、嘘。
「そっ…か…。うん。わかった。」
彼はそう言いながらヘルメットを私に差し出す。
私は首を横に振り、受け取ることはしない。
私の顔をジッと見つめてから、彼は静かにその場を去っていく。
愛してたよ。
貴方にかけた最後の言葉は優しい嘘。
嘘が嫌いな私が使う、唯一の嘘。
『貴方にかける最後の言葉』 Natsu @9natsu9
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