初恋の花びら

逢坂すずね

第1話 一目惚れ

 4月中旬。この地域では桜が満開になる頃、私は一目惚れしました。


【桜side】

「行って来ま〜す」

 私はそう言って家を出た。

 今日は雲一つ無い快晴だから気分がとてもいい。

 いつも通る通学路をスキップ交じりのステップで歩く。

「さっくら〜」

 私は名前を呼ばれて振り返った。すると、親友の仲山茉莉なかやままりがいた。

「茉莉、おはよう」

「うん、おはよう」

 私たちはそう挨拶を交わすと並んで歩きはじめた。これもいつものこと。

 私と茉莉は待ち合わせをしてる訳じゃないけど、いつも一緒に行く。それが、親友になるきっかけだったと今は思う。

「桜は好きな人いる?」

「ううん。そもそも『好き』って言う気持ちがわかんない」

「えぇ~。私、桜と恋バナしたい!」

「そんなこと言われても…」

 そう。私、木花桜このはなさくらは15年間彼氏なしどころか初恋もまだなのです。正直焦ってます。

「あぁそう言えば注連澤君が昨日、『木花さんに明日朝来たら非常階段に来てと伝えて』って言われた。また告白かな?3日前も告白されたよね」

 麻里が茶化すように言った。

 確かに3日前にも藤堂君と言う人に告白された。でも、名前も知らない人に告白されても困る。断るのも失礼だし、了承するのもこっちは好きじゃないんだから失礼だし。

「そうだけど、名前も知らない人に告白されてもさ困るんだよね」

「え?もしかして注連澤君のこと知らないの?」

「うん」

「注連澤悠斗(しめざわゆうと)君ってうちの学年では1番かっこいい人だよ。女子とか注連澤君のこと好きな人多いよ」

 私にとっては「へぇ~」って感じのことだ。私は正直イケメンとか興味ないからなぁ。

 私がそんなことを思っていると私の上に花びらが舞って来た。私は舞い落ちて来た花びらを手のひらに乗せた。桜の花びらだ。ふと横を見ると桜の木が堂々と立っていた。

「春かぁ」

 私がそう呟くと麻里は不思議そうな目で私を見ていた。

 春ももうすぐ終わる。


 私は非常階段に来ていた。

 私の他には注連澤君らしき人と後ろに誰かがいた。

「木花さん僕と付き合って下さい!」

 注連澤君らしき人がそう言った。でも私の心は注連澤君らしき人の後ろにいる人に奪われていた。

 注連澤君の付添だろうか。顔はよく見えないけど、その人は階段から桜を見ていた。満開になった校庭の桜を。

「木花さん?」

 注連澤君らしき人に顔をのぞかれて私はハッとした。

「あっその…えっと、ごめんなさい…」

 私がそう言うと注連澤君らしき人の後ろにいたその人が私の方を向いた。

 驚いているようだけど、冷静なその表情。すごく綺麗な顔立ち。

 その時、強い風が吹いて、満開になった桜の花びらが宙に舞い上がった。

 それは、私の初恋の花びらが宙に舞った瞬間だった。

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