第330話誘い
「ライブ? 今度っていつ?」
と僕は聞き返した。
「GW明けや」
「それって放課後やんなぁ……」
器楽部の練習と被るかもしれない。
「そうや。少しぐらい抜けて来れるやろ? 観に来いよ」
と翔はそれを察して応えた。
「まあ、行けん事はないと思うけど……」
もし被ったとしても僕のパートナーは哲也と拓哉だ。なんならこの二人と一緒に行ってもよい。
「ほな決まりやな」
と言って翔は笑った。
「せやな、たまにはコミックバンドの演奏を見て癒されるのもええかもな」
「コミックバンド言うな。間違ってはないけど……」
と苦笑いしながら言った。一応訂正はするが表情は完全にあきらめ顔だった。
「だったらええやん」
と僕は笑って言った。
「まあな。それに今度の演奏会でぽっぽちゃんのデビューやからな。聴きたいやろ?」
と翔は付け足すように言った。
勿論聴いてみたい。
しかし
「あ、そうかぁ……とうとうぽっぽちゃんもコミックバンドの一員に成り下がってしまうんやなぁ……」
と少し複雑な心境でもあった。
「成り下がるって言うな」
と翔は憤ったように言った。
そして思い出したように
「お前なぁ、うちのバンドをコミックバンドって馬鹿にするけど、俺はこう見えても軽音楽部の部長やねんぞぉ!」
と言って翔は胸を張った。
「え? 嘘!」
正直に言って驚いた。知らなかった。
単なる面白いだけの演奏をするだけでは、人の評価は受けられないとでもいうつもりなのか? それにたかが部活の部長が偉いなんて一度も思った事は無いが、こんな奴でも部長になれるのか?
それに比べて器楽部でほとんど何の役職にもついてない僕は、もしかしたらとても恥ずかしい三年生なのか?
翔が部長である事なんかどうでも良かったが、そんな不安が少しよぎった。
「嘘やない」
と翔は首を横に振った。
僕が翔が部長であることを知って衝撃を受けているとでも思ったのだろう、僕の様子を見て翔は何故か偉そうだった。裏付けのない上から目線が気に入らない。
「ホンマかぁ?」
「ああ、ホンマや……なんや? 意外そうな顔してんなぁ」
と翔が僕を睨んだ。
「いや、そんな事は無い。予想外やっただけや」
「いや、それってそう言う事やろが」
と翔はツッコんだ。僕は案外動揺していたのかもしれない。
そんな感じで僕の昼休みは翔のお陰で予定していたようには練習できなかったが、彼とのセッションはそれなりに楽しい経験だった。
それはそうと翔との間で盛り上がった器楽部との合同演奏に関しては、まだ部長の了解も確認もとっていなかった。
軽音楽部の定期ライブを見に行くことはまだしも、この件だけはだけは僕の勝手で決める事は出来ない。
そう、部長の冴子の了解を得なければならない。
放課後の部活で僕は今回の話を冴子に伝えた。
『なんで勝手に決めた!』
と罵声を浴びる事を覚悟していたが、冴子の反応は
「それ面白そうやん」
だった。
今日は機嫌が良いみたいだ。
後は部長同士で決めてもらおう。僕の仕事はここまでだ。
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