第322話レンタル要員


「え? そうなん?」

これには僕は少なからず驚いた。あの三人は『うちの吹部のレベルが低すぎる』という理由で吹部には入部しなかったはず。なのに、心変わりでもしたのか?


「やっぱり、最後は出たいんとちゃうか? うちは大会とかないからなぁ……全国に行けなくてもやっぱり大会には出たいとか?……ま、どっちにしろ大会終わったらこっちに戻ってくるって」

そう言いながらも、この件に関しては拓哉はあまり興味がなさそうだった。


「お前は? たっくんは吹部に顔を出さんでええんかぁ?」

と僕は聞いた。あの三人が吹奏楽部にレンタルされるのであれば、拓哉がレンタルされないのはおかしい。また建人に何か言われたのか?


「俺かぁ……俺はこっちでお前らと遊んでる方が楽しいからな。それに今更なんか戻る気も無くなったしなぁ……もう三年やし……」

と拓哉は少し考えてから話した。


「え? そうなん?」


「ああ、一応声はかけられたけど断ったわ」

と拓哉はサバサバした表情で言った。どうやら本当に戻るつもりは無かったようだ。


「そうかぁ 三年やもんなぁ……夏から受験体制かぁ……という事は……吹部に行った三年は、大会終わってからこっちに戻って来てまともに練習なんかできるんかぁ?」

と僕が聞き返すと


「できるレベルの事しかやらんのとちゃうか? 俺らもそうなると思うし……」

と言って拓哉は両手を広げ肩をすぼめて諦め顔で言った。


「そうやなぁ。ここで最後までおれそうなんは、亮平と冴子と忍と俺ぐらいやからな……あとは瑞穂か」

と哲也が拓哉の言葉に付け足す様に指折り数えながら言った。


「そっかぁ……それ以外の三年は受験がメインになるんやなぁ……」


「そう言う事や。でもなぁ俺も最後までおると思う。まあ、練習に出られへん日は増えるけどな。寂しいと思うけど俺がおらん時は二人で一緒に頑張ってくれや」

と拓哉が強気な一言を放つと


「あ、それは構わへんわ。気にせんでええわ。夕子か育美を入れてやるから、お前なんぞに用はないわ」

と哲也が間髪入れずに冷たく言い放った。


「え~、それは無いわぁ。殺生やわぁ。それはやめて」

と拓哉は泣きそうな顔で哀願した。

僕と哲也はその姿を見て笑い飛ばした。


 間違いなく拓哉は最後まで僕達に付き合ってくれるだろう。彼はそんな奴だ。



「あ、そうや! 今日の昼休み中にな、鳩崎澪が音楽室に来てん。コミックバンドの和樹と翔と一緒に」

と僕は唐突に昼休みの事を二人に話しだした。

元々二人には話すつもりでいたが、哲也の変なツッコミのお陰で忘れるところだった。


「鳩崎? って誰や?」

と拓哉は鳩崎澪の事を知らなかった。


「ああ、ぽっぽかぁ? 俺、同じ中学校やったわ。で、ぽっぽちゃんがどうしたん?」

と哲也が聞いてきた。


「いや、実はね……」


 僕は今日の昼休みに音楽室であった出来事を二人に話した。特に彼女の歌声が個性的で一撃で気持ちを持って行かれたと熱く語ってしまった。


「へぇ。お前らが惚れるほどの声の持ち主かぁ……そりゃ聞いてみたいなぁ」

と拓哉も興味が湧いたようだ。


「うん。あの子ならなんでも歌えると思うけど、ストリングスをバックに歌っても面白いかなぁ……なんて……」

と僕が話しをしている途中で音楽室の扉が勢いよく開けられた。


 音楽室に居た全ての器楽部員の視線が入り口に注がれた。そこには僕の見知らぬ男子生徒が立っていたが、僕達の姿を見つけると引き攣ったような顔で睨んでつかつかと突進してきた。

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