第160話 原っぱ
本家の裏の原っぱに着くと、そこにはお嬢ではなく美乃梨が立っていた。
「なにしてんの? こんなところで……」
僕が後ろから声を掛けると驚いたような表情で僕達を見つめた。
オヤジを見ると無表情で美乃梨を見つめていた。何かを考えているようだった。
「いや、別に……うん」
一瞬言いよどんでいた美乃梨だったが意を決したように頷くと
「おじさん。私にもお嬢が見えるかな? 会わせてください!」
と振り絞る様な声でそれでいてはっきりとオヤジに頼んだ。
「そう来たか……美乃梨はなんで会いたいんや?」
オヤジはこの状況を予想していたのだろうか? そうではないようだが美乃梨が何らからの行動に出るとは思っていたようだ。
「上手くは言えんけど、ご先祖様が苦しんどぅ時に私には声が聞こえてんのに、それが何か分からなかったけえ。たまたまおじさん達が来たから良かったけど、聞こえていたのに何もできんかったのが耐えられんけえ」
「でも、見えるようになったからと言って守人の様には成れへんで?」
「うん。それはエエの。そん時はおじさんにすぐに連絡するけえ。私はお嬢の話相手にでもなれたらええねん」
美乃梨はオヤジの顔をまっすぐに見つめて言った。
軽くため息をつくとオヤジは
「そうかぁ……でも、それはおじさんが決める事やない。お嬢に聞くしかないな」
と優しく言った。
そして彼女の頭を撫でながら
「色々考えたんやな……まあ、おじさんはあまり同意はできひんけど、会えたらええな」
と優しく言った。
僕達は原っぱの奥の森を見つめた。この状況でお嬢が出てくるか疑問だったし、出て来ても美乃梨にお嬢の姿が見えるのかどうかも分からなかった。
しかしそんな心配をよそにお嬢はいつものように森の奥から出てきた。
僕は美乃梨の横顔を見た。
美乃梨は目を見開いて驚いたような表情で原っぱの奥を見ていた。
そして僕に振り向いて
「あれがお嬢?」
と小声で聞いてきた。
美乃梨にはお嬢の姿がはっきりと見えているようだった。僕は黙って頷いた。
お嬢は無言で原っぱの真ん中辺りまでやって来た。
「お嬢、美乃梨が会いたがっとんぞ」
オヤジが歩み出て先に声を掛けた。
ゆっくりとお嬢の口が開いて
「分かっておる」
とだけ答えた。
暫く黙ってお嬢は美乃梨を見ていた。
美乃梨は視線を外すことなくじっとお嬢を見つめていた。
「……だが、お主を守人にする事はできん」
と美乃梨に鋭い視線を浴びせながらお嬢は言った。
「なんで?」
美乃梨が聞いた。
「その力が無いからじゃ」
お嬢の表情は全く変わらない。
「でも、今私はお嬢の姿が見えているでしょ?」
「確かにお主の力は強い。ワシの力で抑えても中途半端に見えてしまう。見えたり見えなかったりという状況が一番始末に悪い。なのでお前には見せる事にしたが、それ以上の力はない。洋介や一平のような守人にはなれん」
「でも、お嬢の話し相手にはなれるわ」
「そんなものになってどうする? 要らん」
お嬢は突き放しように言ったが、それは美乃梨の事を思って言っているというのはすぐに判った。
――話し相手がおらんと言って怒っていたのは誰だ?――
僕はお嬢と初めて会った時の事を思い出していた。確かお嬢はそんな事を言っていた。
「良いの。お話相手になるだけで、それにいざとなったらおじさんや亮ちゃんに連絡して来てもらうもん」
お嬢は視線をオヤジに移した。
「まあ、俺も賛成はできひんけど、このまま中途半端に何も教えないで放置するのもなんだかなぁ……とは思う。ワシや親父が頻繁に来れる訳ではないし美乃梨がお嬢の話を聞けるなら、惣領も安心できるやろうとは思う」
オヤジの話を黙って聞いていたお嬢は相変わらず無表情だった。
軽く二人の間を沈黙が支配した。
先に口を開いたのはオヤジだった。
「なあ、お嬢。今回の事はお嬢だけが原因やないやろ?」
お嬢はオヤジを見上げたまま相変わらず黙っていた。
「なんで、美乃梨の家の仏間にあんなもんが現れたのか考えていたんやけどな……もしかして美乃梨の力にお嬢も気が付いていたんとちゃうか?」
「美乃梨の力?」
僕は思わず小声でオヤジに聞き返してしまった。
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