第82話 女王への謁見
城に到着すると、そのまま少し客室で待っていてほしいとナツカに言われて一室に通された。
きっと王に報告しに行ったのだろうことは良そうできたが……。
「何でヴェッカがこんなとこにいんの?」
すでに客室にはヴェッカがいて、ソファに座り優雅に茶を嗜んでいたのである。
「おや、それはこちらのセリフでもあるのですが。私は王への謁見の申し出の結果が出るまでこちらで時間を潰させていたのです。ボータ殿たちは何故こちらへ?」
どういう理由で城に来たのか説明してやった。
「ふむ、なるほど。国家を代表する武人にもボータ殿は興味を持たれてしまったようですな」
「悲しいことにな。はぁ、何かめんどくさそうなことにならねぇといいんだけどな」
「あ、果物はっけーん! いっただきまーす!」
ポチがめざとくテーブルの上に置かれてある籠に盛られている果物を見つけて食べ始める。
「あ、もうポチちゃんてば、勝手に食べてもいいのでしょうか?」
「ええんちゃう。客間なんやし、手出したらアカンもんを置かへんやろ」
カヤちゃんは心配性だが、ビーの言う通り食べてもいいから置かれているのだと俺も思う。
まあ、あの程度の量なら……ほら、もう空っぽだし。
「ほえ~足りないよぉ~」
おいこら、さっき店で山ほど食っただろうが。
本当にポチの胃袋がどうなっているか腹を切り裂いて見てみたい衝動にかられてしまう。
――ガチャリ。
扉が開き、向こうからナツカが現れた。その傍には例の兄――アキミネもいる。
「おお、貴殿らか! 無法者を討ち倒してくれた猛者というのは! ふふふ、確かその者は我のことを理解してくれている素晴らしき人格者ではないかふぐぅっ! ……い、痛いではないか、妹よ」
「ちょっと煩いからアニキは黙ってて」
不憫な兄だ。ナツカに脇腹を殴られて悶絶気味になっている。
口を尖らせながらナツカが俺の目を見つめて言う。
「今から王に謁見してもらうからついてきて」
「! 許可が下りたのですかな!?」
「? ……ああ、アンタが謁見の申し出をしてきたヴェッカね。うん、アンタも一緒についてきていいから」
「さあ、我らが天が待つ至高の地へ誘ってやろう」
うん、ぶれねぇなぁ『剣獅子』。
きっと恥ずかしいなんて感情が欠落しているんだろう。
「あ、なあなあウチらは別に興味あらへんからここにおってもええ?」
そう言うのはビーだ。
軽く侮辱罪になりそうな言葉にヒヤリとしたものを感じながらも、ナツカが答えてくれる。
「別にいいけど……いいの?」
「だってコイツの面倒も見なアカンし」
見ればいつの間にかポチがソファで寝息を立てていた。本当に自由な奴である。
「あ、では私も残りますね。ボータさん、いいですか?」
「分かった。んじゃ俺とヴェッカの二人で行ってくるわ」
と言いつつビーに近づき耳打ちをする。
「何かあったらすぐに脱出を。合流地点は宿。難しいなら橋の上、な」
「オッケーや。ボーやんも気を付けや」
一応何が起こってもポチたちが傍にいるならカヤちゃんは大丈夫だろう。
俺もヴェッカも自分で何とかできる力があるので問題はないと思う。
最悪〝外道札〟を使ってでもヴェッカと一緒に脱出すればいい。
けど一枚しかねぇから慎重にしないといけねぇな。
できれば何事も起きないようにと願いつつ、俺とヴェッカはナツカたちの後をついていった。
当然到着したのは謁見の間と呼ばれる玉座がある場所である。
まだ玉座には誰も座っておらず、一応の礼儀として俺たちは膝をついて頭を伏せていた。
周りには兵士が立ち並んでいて、何が起こっても対処できるようにされている。
そこへ足音が聞こえてきたので、神経を尖らせていく。こちらも何が起こっても対応できるようにしておかなければならない。
足音は玉座の方へ向かい、ピタリと音が止む。
「皆の者、面を上げよ」
おや? 女性の声?
聞こえた声音に眉をひそめつつも言われた通りに顔を上げた。
玉座に座っていたのは、間違いなく女性だと一見して分かる人物。
黒のミニドレスに金糸で彩ったような煌びやかな衣装だ。
美しいと思わせる金の髪が左右でカールを巻いていて、見た目だけでも貴族っぽい印象を受ける髪型だった。
年齢も若い。二十代後半……下手すれば前半かもしれない。
「まずは名乗ろう。余はこの【バルクエ王国】を治めておる国王――ユリシス・フレイ・アル・バルクエじゃ」
ずいぶんと喋り方に特徴がある女性のようだ。
「話は聞いた。その者らのお陰で無法者を捕らえることができたと」
まあ、捕らえたというより始末したという方が正しいけども。
「あーユリシス様、若干情報に食い違いが」
「食い違い? 申してみよ、ナツカ」
「はい。無法者を始末できたのは、ここにいる黒髪の男のお陰で、そちらの女性は謁見希望者で、男の仲間でもあります」
あ、ちゃんと始末って言い直す当たり、結構真面目なタイプなのかもな。
「ふむ。これは失礼をしたな、すまぬ」
へぇ、自分の発言の間違いを正すばかりか謝罪まで。実直な性格だな。
「ではその者、名を聞かせてはくれまいか?」
「はっ、私はボータ・シラキリと申します」
さすがにここで偽名はマズイ。一度ナツカたちにはバレているし。某犬のせいで。
「変わった名前じゃな。何となく響きがナツカたちと似ておる」
……冷や汗が出てきましたよ。
チラリと横目でナツカを見ると、涼し気な顔を保っている。誰にも言っていないと彼女は言っていたが、嘘だったのか?
いや、言っていたならせっかくの異世界人なのだからもっと食いつきがあるか。
ここは少し様子を見る必要がありそうだ。
「ではボータ・シラキリよ。よくぞ我が国のために尽力してくれた。礼を言うぞ」
「もったいなきお言葉にございます」
「何か謝礼をしたいのじゃが、何を望む?」
「……では幾ばくかの金せ――」
「そのことですが、一つ提案があります」
……はい?
いきなりナツカが割って入ってきた。
「ナツカか、提案とは何じゃ?」
「この者を召し抱えられてはいかがでしょうか?」
何ィィィィッ!?
やっぱそのつもりだったかコンチクショー!
だから国王に会うのは嫌だったのだ。こういう状況になるかもしれないと思ったから。
「つまり仕官させろと申すか? 珍しいのう、そなたがそのようなことを口にするとは」
「こう見えても彼はなかなかに武の素質があります。秘めた力は我々と同等やもしれません」
「何!? どういうことだ妹よ! この者が我らと同じ高みに立つ資格者だとでもいうのか!」
「ちょっとアニキはうるさいから黙ってて。王の御前だし」
「う……はい」
本当に妹に弱いな、お兄ちゃん。
「しかしアキミネの疑問も尤もだ。そなたらは己の立場を理解しているはず。それにもかかわらず、その者がそなたらと同じ力を持つ者だというのか?」
「可能性がある、と申し上げています。それにそこの女性もまた、兄と剣を打ち合える実力を持っています」
「何と! それは真か!? アキミネ!」
「はっ、確かに只者ではないと我も思います。ただそちらの言の葉を紡ぐ者に関しては些か判断に迷うところではあります。ただ我が妹が言うのであれば、その身には強き魂が眠っているのやもしれません」
言の葉を紡ぐ者? 止めてくれ、そんな二つ名を俺につけるのは。
「むぅ、アキミネまでも認めるというのか。……うむ、良きに計らうといい」
「ありがたき幸せ」
「は、発言をお許し願いたいです!」
このままズルズルと流れに身を任せていたらあっという間に就職先が決まってしまう。ここは何としても回避せねば。
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