外道チートの大冒険 ～異世界に呼ばれたジョーカー～

第22話 魔物との戦闘

　俺は空中に投げ出されてしまい、触手に身体を掴まれてしまう。

「ひえぇぇぇっ、何かぬめっとしとるぅぅぅっ！？」

　触手は半透明でヌメリ気もあってマジで気色が悪い。

「ボータさんっ！？」

　そう叫ぶカヤちゃんは、しっかりポチにしがみついていたようでいまだポチの背の上。

　俺を掴んだ触手の張本人が、地面の中からぬぅっと姿を現す。

　触手を入れれば体長はポチとそう変わらないほど大きいかもしれない。全身が半透明で、幾本もの触手を持つ生物。それはまさにクラゲそのもの。

「あ、大地クラゲですよ、ボータさん！　わたし初めて見ましたぁ！」

「感動しとる場合かぁぁ！」

　明らかに相手は俺を捕食する気満々じゃねぇか！

　こんなウネウネとした気色悪い物体に食べられたくない。

「つうかこれが人に仇名す系の魔物ってやつか！　ポチィ、コイツを逆に食べてやれぇ！」

「え～何かおいしくなさそうだよぉ」

「こんなところで好き嫌いしとる場合かぁぁ！」

　どいつもこいつも空気が読めん奴らめ！

「ああもうしょうがねぇ！　――〝外界移し〟！」

　俺は全身を魔力でコーティングして魔術を発動。俺の身体は異界へと滑り込み、触手の拘束から逃れ、そのまま地上へと落下する。

　大地クラゲとやらも、確実に捕獲していたターゲットの感触を失ったことできょどってしまっている様子。

　うん、やっぱ便利だわ〝外界移し〟。

　最強の防御・回避術であろう。

　ただ魔力燃費は悪いけども。だから長時間の維持はできない。すぐにバテるから。

　俺は地面に降り立つ瞬間に魔術を解いて、《司気棒》を帯から出して構える。

　俺がやる気を見せた態度を取ると、カヤちゃんたちが「おー」という感じで目を見張っていた。

「よくもやってくれたな！　よぉし、目に物を見せてやれ――ポチ！」

　ズゴーってポチとカヤちゃんがこける。

「ポ、ポチちゃんに頼むんですかぁ！　《司気棒》も構えましたし、今物凄くボータさん自身が戦ってやるって感じでしたけどぉ！？」

「うっさいわい！　こんな不可思議な生き物とできる限り戦わないのが俺のポリシーじゃい！」

「「…………」」

　だったら何のために修行してきたの？　的な視線を二人がぶつけてくる。止めろ、そんな目で見つめられて変な扉が開いたらどうするんだよ。

　俺たちのやり取りを仲違いと取ったのか、今が好機と言わんばかりに再度俺へと触手を伸ばしてくる大地クラゲ。

「おわ！　ちょっ、何で！　俺ばっか！？」

　無数の触手が次々と襲い掛かってくるが、俺は紙一重で身体をくねらせながら避ける。

「う～ん、いつも思うんだけどぉ、ボータって本当に避けるの上手いよねぇ」

「そうですよねぇ。おじいちゃんでもそこそこ本気を出さないとボータさんには攻撃を当てられないだろうなって言ってましたし」

「え？　そうなの？　手加減しててもあのモモの攻撃を避けられるなんて、ボータってば人間止めちゃってたりして？」

「うふふ、そんなこと言ったらボータさんに悪いですよぉ」

「ちょっとそこの二人ぃ！　何平和に会話してんの！　今の状況分かってるぅ！？」

　こっちは必死で敵と戦闘中だってのに。つうかポチ、誰が人間止めとんじゃ！　俺は昔っから目が良くて避けるのが上手いだけだ！

　だってさ、さもないと織花がヒステリックになって竹刀を振り回した時にかわせないじゃん。痛いしさ、殴られたりすると。

「ああもう！　コイツもしつこいっ！」

　大地クラゲもムキになっているのか、鞭のようにしならせた無数の触手で何が何でも俺を捕まえようとしてくる。

　相手が美女ならば大歓迎だが、骨もない軟体生物は勘弁してほしい。

「ったく！　だったらこれでどうだ――《司気棒》！」

　右手に持った《司気棒》に意識を集中させて先端を大地クラゲへと向ける。

　すると大地クラゲの周囲の大気が渦を巻くように動き出し、

「どっせぇぇぇぇいっ！　飛んでっちまえぇぇっ、ポチのところに！」

「ええっ、ボクゥ！？」

　《司気棒》を地から天へ大きく振るうと同時に、下から上へ生じる大きな大気の流れに従って、大地クラゲが浮き上がり放物線を描きながらポチの頭上へと落下していく。

「ちょっ、きちゃいますよポチちゃぁん！」

「ダイジョーブ！　こんな奴！」

　ポチが大地を蹴り大地クラゲに向かって跳び上がる。そのまま鋭い爪で一瞬のうちに相手の身体を細切れにしてしまった。

　哀れなクラゲよ、成仏しろよ。殺したのはポチだぞ。覚えておくように。

　南～無～と手を合わせていると、口を尖らせたポチたちが近づいてくる。

「もうボータ、いきなり酷いよぉ！」

「そうですよ！　何か恨みでもあるんですか！」

　どこの口がほざくのやら。俺が命からがら回避行動をしている最中、我関さずといった感じで和やかムードに浸っていたくせに。

「へいへい、悪かったよ。けどポチならあんな奴くらい瞬殺だって思ったからな。こう見えても絶大の信頼を置いてるんだぞ」

「ぜ、絶大？　そ、そうかぁ……うん、ならいいよー」

「それにカヤちゃんにも、こういう危険がこれから先あるんだってことを知っておいてほしかったしな。だから戦場では気を抜かないようにしてほしいんだ。俺はカヤちゃんに死んで……るけど、消えてほしくねぇからな」

「ボータさん……そんな深い考えがあったんですね。さすがです。さすがはおじいちゃんが認める人ですね！」

　うん、二人が単純で本当に良かった。俺の口八丁はまだまだ彼女たちには有効のようだ。

　しかしポチはやはり強い。あんな強そうな魔物を一瞬で倒すしな。

　正直少し旅に不安があったが、これなら戦闘系は全部彼女に任せればオールＯＫだろう。

　それに《司気棒》の能力も、魔物に有効なのは確かめられたから良かった。

「んじゃ、さくっと進んで行こうぜ」

「「はぁい！」」

　再びポチの背に乗り目的地である【アルバットの街】へ向かった。