第11話 外道札
カードを意識したと同時に、俺の頭の中に情報が生み出されていく。
ズキッと僅かに頭痛が走る。
まるで記憶喪失だったかのように、脳内に刻まれていたはずの記憶が甦ってきた。
それはこのカードの正体。
「――っ! こ、これが……〝
記憶が確かならば、この右手の中にあるカードは〝外道札〟と呼ぶ代物だった。
表は何も描かれておらず真っ白で、後ろは白と黒が渦を巻いている図が描かれている。
「何だかよく分かんないけど今のうち~!」
頭上から迫り来るポチの右手。このままでは押し潰されてしまう。
俺は感覚と記憶に従って、一枚のカードを左手で取って頭上へ掲げる。
「お、俺を守れ! ――《守護結界》!」
刹那――真っ白だったカードの表。
《守護結界》 属性:光
効果:カードを基点として半径三メートル以内に強力な防護壁の役を担う結界を張る。込められた魔力によって強度と持続時間は異なる。最低発動時間は十秒。
そんな文字が刻まれていた。
また《守護結界》という文字と効果の間には、誰が描いたのかイラストが描かれている。
白い光が半球状に広がり、中心には人が立っており、向かってきている大きな犬を弾いている絵だ。そしてそれは、俺が咄嗟にイメージしたものが繁栄されていた。
そのイラスト通り、俺の周囲には白い結界が張られ、
「――っ!?」
ポチの右手を弾き返していた。
「っ……うぅ、ちょっと痛かったよぉ。何それぇ?」
ポチが右手を舐めながら恨めしそうな目で見つめてくる。
十秒が経つと、カードとともに結界は霧散して消えた。
た、助かったぁぁぁ~……っ。
「す、す、すっごぉぉぉい! ボータさん、ポチちゃんの攻撃を弾いちゃいましたぁ! 凄いですボータさぁぁぁん!」
少し遠くで興奮気味に両手を振っているカヤちゃん。応えてやりたいのは山々だけど、まだ終わったわけではない。
何せ……。
「グルル……またちょっと面白くなってきたかも」
だからもう少しだけ本気出していいよね? 的な視線は止めてぇ!
するとポチの両足から青白いオーラが滲み出てくる。顔つきもさっきより幾分か真剣みが増して……。
「ちょっ、本気って殺す気かぁっ!」
「あは、大丈夫大丈夫。きっと大丈夫」
「セコムじゃねぇんだから大丈夫なわけぇだろうがぁ!」
いや、きっとセコムでもこのバケモノ犬の攻撃を防ぐことはできないだろうが。
明らかにやる気を出し始めているポチ。彼? 彼女? が本気になったら、いくら何でももうムリだ。
まだこの〝外道札〟を使いこなせてるわけじゃないっつうのにぃぃ!
「いっくよぉ~」
「あ、だから待て! お座り!」
「命令はモモからしか聞かないよぉ」
「ああどうすれば! まだ若い操で散りたくない! できれば美人の嫁さんと子供たちに囲まれて悠々自適な暮らしをしたいんだぁ! そして死ぬ時は可愛らしく育った孫たちに見送られて、『おじいちゃんってば、幸せそうに眠ってる』とか何とか言われながらあの世に逝きたいのにぃぃぃっ!」
それが夢に描いている幸せな死に方である。
ポチがグッと足に力を籠め始めた。
「あ、こらポチちゃん、それはさすがにマズイですよぉ!」
止めようと叫んでいるカヤちゃんの声もポチには届かないようで、楽しげに俺を見て笑っている。
ああもう! 何なのこの戦闘狂の犬は!? こ、こうなったら俺が何とかするしか!
しかし何をすればいい? 結界を張っても、十秒しか持たないし、ポチが本気で攻撃すれば破られそうな気もする。
……ちょっと待てよ、命令……か。
その時、俺の脳裏にあるモノの存在が閃いた。
ポチが大口を開けて突っ込んでくる。
「ああもう、破れかぶれだ! いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
俺は一枚の〝外道札〟を、ポチの口目掛けて放り投げた。カードはボンッと姿を変えて、小さな団子状のようなものになる。
ポチはそんなものを避けるまでもないとでもいうのか、ゴクリと飲み込んでしまう。
続けて俺に噛みつかん勢いで接近してくる。
「お、お座りぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
死にもの狂い、全力で叫んだ。
そして――。
「――っ! ワンッ!」
見事にポチが、俺に攻撃が届く寸前で止め、静かにお座りをしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます