第9話 友の失踪

「……き、消えた……っ!?」



 幼馴染であり親友でもある望太が、魔法陣に触った瞬間に光とともに消えてしまった。

 その事実に、僕だけじゃなく隣に立つ望太と同じ幼馴染の織花でさえ言葉を失って固まってしまっている。



 僕は一刻も早く何が起こったのか、それを知るであろう第一王女のアメリアさんに問い質す。



「ど、どういうことですか!? 望太はどこに!? さっきの光は一体!?」

「ちょっ、落ち着きなさいよ京夜!」

「だ、だけど! 望太がいなくなったんだよ! これが落ち着いてなんていられないよ! だってだって……僕たちが無理矢理望太を連れてきたようなもんなんだから!」

「そ、それは……っ」



 そうだ。あの時は必死だったし、望太が傍にいてくれれば万事何事も上手くいくと思って、大した考えも持たないまま彼の足を掴んで、ともに異世界らしき場所へと召喚された。



 いつも愚痴ばかり言って、疲れるから嫌だと口にしながらも、結局助けてくれる親友が僕は大好きだしとても信頼している。



 しかしもし、望太がどこか見知らぬ場所へ行ったというのだったら、何が何でも探し出さなければならない。それがここへ連れてきてしまった僕の義務だから。



「あ、安心してください! 彼は恐らく無事ですので!」

「それは本当ですか?」

「ええ、彼が触れたのはこの城内に設置された魔法陣へ転移することができる移動魔術の一種なのです。ただ……」

「ただ、何です?」

「触れただけでは発動しないはずなのは確かなのです。ですから少しおかしいと思いまして」

「誤作動したってことなの?」



 織花が少し不機嫌そうに尋ねた。



 その問いにアメリアさんは首を左右に揺らしながら「分かりません」と言う。



「こんなことは今までもなかったので。ですが安心してください。飛ばされたといっても、場所は分かっていますから。先程彼が触れた魔法陣は、この城の蔵書室ぞうしょしつへと繋がっています。そこに彼がいるはずなので」

「じゃ、じゃあ今から向かおう!」



 僕は本当に彼が無事なのか確かめたかった。



 アメリアさんは「はい」と頷くと、先程望太が触れた魔法陣に触れてほしいと言ってきたので、僕と織花は言われたように触る。

 アメリアさんも同じように触れると、



「――《転移ワープ》」



 と呪文のようなものを唱えた。



 すると僕たちの身体が光りに包まれ、一瞬にしてその場から掻き消える。

 気づけば視界に映った光景は、先程見ていたものとは違っていた。



 周囲には多くの書籍が並べられた棚が所狭しと存在し、前方にはテーブルや椅子などがある。借りた本をそこで読みながらひとときを過ごすのだろう。

 蔵書室とやらは二階仕様になっており、当然二階も本で埋め尽くされている。



 傍には受付のようなものもあり、アメリアさんがそこへ真っ先に向かい望太のことを聞き出す。



 ――しかし。



「え? 来られていない、ですか?」



 帰ってきた答えは予想だにしないものだった。



 アメリアさんが、受付の人に僕と同じ服を来た黒髪の少年のことを尋ねたが、そのような人物が来た事実はないとのこと。



「おかしいです。あの魔法陣はこことしか繋がっていませんのに……」

「やっぱり誤作動したんじゃないの? だったら他の場所を探してよ。どこかに望太の奴がいるはずでしょ?」

「わ、分かりました。あの、お願いできますか?」



 ずっと傍について回っている兵士たちにアメリアさんが頼むと、兵士たちが返事をしながら敬礼をしてその場を去っていく。



「こんなことになって申し訳ございません! すぐに見つかると思いますので」

「いいわよ。よく分からないものに触れた望太も悪かったんだし。それにアイツなら、きっとどこにいても無事だしね」

「そ、そうなんですか?」

「そうですよ、王女様。望太は僕たちの幼馴染なんですけど、どんな困ったことがあっても、いつも彼が何とかしてくれたんです。もしかしたら自分からひょっこり姿を見せるかもしれません」

「その方が可能性としては高いわね。アイツってば好奇心も旺盛だし、一人になったのをいいことに城の中を探検でもしてるかもしれないし。ああ、そう考えたら何か腹が立ってきたわ。こんなに迷惑かけて。帰って来たら覚えてなさいよねぇ」

「は、ははは、お手柔らかにね、織花」



 こんなことを言うけれど、彼女がどれだけ望太のことを心配しているかは分かっている。強がっているように見えるが、彼女の手が自身の髪を握りながらそわそわとしていた。これは彼女が焦ったり動揺している時に、よく見せる癖だ。

 僕たちにとって彼の存在はとても大きい。だから早く無事な姿を見せてほしい。



 そう願うが、次に兵士たちが来た時に僕たちは衝撃の事実を目の当たりにする。



 それは――――大切な幼馴染の失踪だった。

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