第7話 チート、らしい

「その『道化師』って何か変わった能力があるとかそういうのないの?」

「これはあくまでも資質的判断に基づいたものじゃ。特性とでも呼べるかのう。その者を表す代名詞じゃし、特別な力が宿っておるというわけじゃない」

「ふぅん、残念。ピエロみてぇにナイフ投げとかジャグリングが神業的に上手くなったりしねぇんだ」

「……そんな能力欲しいのか?」

「いや、何か面白いじゃん。職を失っても、最悪大道芸で食っていけるかもしんねぇし」

「さて、魔術についてじゃが」



 さらっと無視すんなよ。寂しいだろうが。



 そんなこんなで爺さんの講義が始まった。

 どことなく教えることに楽しさを覚えていそうな眼差しが何か嫌だ。ありがたいけど、できれば女教師を所望したい。それも見るからに可愛いか、それとも美人だったらなお嬉しい。



 まあ現実は枯れる寸前のジジイだけど。



 それでも知識は何よりも力になるので、俺は素直に彼の言葉を聞いていた。

 簡単にいうと、魔術というのは奇跡の御業とも呼ばれる力なのだそうだ。



 自然と感応し、その力をちょっとだけ利用させて行使するのが魔術。何もないところから、魔力を媒介にして火や水を発生させることができる。

 魔術的資質は各々によって異なり、多種多様の魔術が世に存在するという。



「つまり人によっていろんな魔術があるってこったな」

「うむ。そういうことじゃ。ただほとんど者は基本的に属性魔術と呼ばれる枠組みの中で使用を許されているがのう」

「? 属性ってのは?」

「一般的に火、水、土、風、雷、氷、闇、光の八種とされておるのう」

「そのどれかに属する魔術を扱うのが普通ってことか。……あれ? 俺のはどれに属するんだ?」

「まあ慌てるでない。魔術というのは遺伝子と深く関わっており、血の繋がりが魔術の発現を強める」

「……つうことは、火属性を扱う魔術士の子は同じように火属性の魔術を使うようになる?」

「うむ。そして中には特殊な魔術。特異魔術と呼ばれる属性魔術から外れた力を使う者もおる。能力は様々じゃが、どれも稀少でかなりの優位性を持ち合わせたものじゃ」

「俺の《外道魔術》もその特異魔術ってこと?」



 爺さんが「そうじゃ」と頷く。



 特異魔術……か。俺もできるんならカッコ良く火の魔術とか使ってみたかったんだけどなぁ。



 きっとアイツら……我が幼馴染たちなら王道主人公っぽい力とか持ってんだろうし。羨ましい限りだ。

 アイツらのことだから、全属性の魔術を扱えるとかふざけた能力があってもおかしくはない。

 そう考えたら近くにいないで良かったかもな。嫉妬で狂いそうだし。



「まあお主の《外道魔術》。簡単に言うと、他の特異魔術の稀少度とは比べものにならないほど珍しい魔術じゃぞ」

「……! そ、そうなの?」

「知られれば、権力者たちがこぞってお主を狙ってきてもおかしくないほどに、のう」



 うわぁ、それは勘弁だわ。ていうか何で俺にそんな稀代の代物が宿ってんだよぉ。そういうのはあの幼馴染バカどもで良かったのにぃ。



 だってアイツらならどんな難題だろうと、結局切り抜けて長生きするだろうし。



「えっと……もし元の世界に戻れないってんなら、静かに暮らしたいんだけど……」

「それはお主次第じゃろう。強過ぎる力に溺れてしまう者も儂はこの目で腐るほど見てきた。お主がそうなれば、人生の先に待つのは破滅じゃ」

「嫌だぁ! まだ美人で可愛い嫁さんもゲットしてねぇのに、権力者に捕まってアホみてぇに利用されるのは嫌だ! 利用されるんならせめて絶世の美女とかがいい!」

「それは儂も同意見ではあるがな。だったら、その力を使いこなさんとダメじゃということじゃ」

「……俺、修行とかそういうの嫌なんだけど。めんどくせぇし。しんどそうだし。痛いのとかやだし」

「何じゃ。この世は強き者ほど優遇される世界じゃぞ。お主が上位存在になれば、寄ってくる女子も山ほどおるかものう」

「……み、魅力的だけど、生来の臆病さとめんどくささが選択を邪魔してくるぅ……っ」

「難儀なことじゃが、臆病さは生き抜くに最も必要な要素だと思うがのう」



 だって修行って言葉がもう億劫にさせるんだよ。漫画とか読んでて本当に主人公とかすげぇなって思うし。



 よくもまあ、一歩間違ったら死ぬような修行とかできると思う。

 異世界ファンタジーに憧れなかったわけじゃねぇけど、別に主人公をしたいなんて思ったこと一切ないしさ。



 というかずっと傍に主人公とそのヒロインがいたってことも大きいかもなぁ。



 アイツらの存在の逞しさとか凄さのせいで、俺も頑張ろうって気すらしなかったし。

 きっとアイツらの前世って天下人とか、下手すりゃ神なんじゃね? とかも思ってるしなぁ。まあ、神は言い過ぎだけど。



 俺は精々足軽とか一般兵とかそんなんだったんだろう。もしかしたらアイツらに仕えていたから、現世でも腐れ縁が続いてるのかもしれねぇ。迷惑なこった。



「……そういや気になってたんだけどさ」

「何じゃ?」

「……爺さんって何者?」

「ふむ。ただの隠居した酔狂なジジイじゃよ」

「もしかして根に持ってる?」

「ククク、冗談じゃ。して、修行は受けるのかの?」



 さて、どうしたものか……。



「……もう一つ、これも気になったんだけど、何でそこまで面倒見てくれるんだ?」

「む? ただの暇潰しじゃ」

「……はい?」

「まあ半分は冗談じゃ」



 半分も本気なんだな。そうなんだな。このチビジジイめ。



「まあ理由はあるが、それはおいおい教えてやろう。修行を受けるんじゃったらのう」



 何だか物凄く気になる言い方をしおって。



「う~ん……こう短い時間で一気にバーンって強くなれるんならそれの方が良いかも」



 苦しいのや辛いのはできることなら一瞬がいい。



「できないことはないが、下手すりゃ死ぬぞ?」

「うっ……マジで?」

「何のリスクも背負わずに、そんな都合の良いものがあるわけがなかろう」



 ですよね~。分かってたよ、分かってたけど何だかとってもチクショウ。



「どうするんじゃ? このまま何もせずに、外へ出てただ死ぬか? それとも力をつけて生き抜いていくか、さあ……どっちじゃ?」



 究極の選択じゃないですかぁ!



 俺はできるだけ楽して生きたい。甘い汁だけ吸いたい。ただ少々面倒なことがあっても、俺に大きな得があれば何だってするけども。



 異世界ファンタジーの修行か…………ゾッとするわ。



 でもこの先、生きていくには多少の力が必要そうなのも理解した。だからここは……。



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