第6話 外道魔術
俺が腕を組みながら、今後どうやって生き抜いていくか考えていた時、
「――ならここに住めばいいじゃないですか!」
とのカヤちゃんの弁。
確かにそれも考えた。しかしこんな何もないところで隠居生活を送るにはまだ年若い俺はすぐに納得できるはずもない。まだまだ遊びたい盛りなのだ。
可愛い女の子ともくんずほぐれつな関係になってみたい。
ここに若干一名いるけど幽霊だし。触れるけど冷たいし。
はぁ……女の子の優しい温もりがほしい。今はとにかくいずれはほしい。結婚もしたいし。子供だってほしい。
「どうしても出て行きたいというんじゃったら、力をつけてからにすれば良かろう」
「そう簡単に言うけど……。俺は何の取り得もない一般人だし」
「その割りには小賢しい頭はあるようじゃがのう」
「……ナンノコトカナ?」
どうもこの爺さんとは相性が悪い。俺ののらりくらりが通用しないから。
これが織花相手なら扱い易いのに。
「それにその膨大な魔力を磨かぬというのは、少々もったいないぞ」
「いや、だからその魔力とか言われてもピンとこねぇんだって」
「ふむ。カヤよ、アレを」
「アレ? ……おお! アレですね! ちょっと待ってください!」
カヤちゃんが思い出したようにポンと手を叩くと、懐を探り出す。
そして取り出したのは――。
「……ガマ口の財布?」
財布というよりは小さなポーチのようなものにも見える、ピンク色で水玉模様の入ったガマ口ポーチだった。
「これはですね~、その名も《何でも入れちゃい
「……へぇ」
何その安直なネーミング。分かり易いけど酷くカッコ悪い。
しかしムフフと胸を張りながら、カヤちゃんがガマ口を開けると、
「お願い出てきて――《
まるで蛇使いの笛に踊らされた蛇のように、ひとりでに黒くて長い物体が出てくる。
「おわっ、何だ気持ち悪い!? 何かウネウネしとる!」
しかしそれはよく見れば、俺にもかけ離れたものではなかった。というよりも、今も身に付けているアレである。
「…………何でベルトが?」
そう、腰に巻くベルトなのだ。
「それを身体のどこでもいいから巻くんじゃ」
「……まず説明を先に要求したいんだけど」
「えーい!」
「うわっ、ちょっ、カヤちゃん! いきなり抱きついて何なんだよぉ!」
冷たいけど軟らかくてちょっと気持ち良いと思ったのは内緒だ。何で死んでいるのに軟らかいのかは謎だけども。
カチャリと俺の腰から音がした。見ればカヤちゃんの手によってベルトが巻かれている。
「い、いきなり爆発とかする代物じゃねぇよなぁ」
「猜疑心が強い奴じゃのう。安心せい。それはお主の資質を見るものじゃ」
「資質?」
俺の言葉とほぼ同時に、ベルトのバックルが光り、細く穴が開いている部分からレシートみたいな紙が出てくる。
それを無造作に爺さんが取って、書かれた内容を見たあと一瞬驚愕して目を見開くが、「なるほどのう」と興味深そうに声を漏らし目を細めた。
「ほれ、見てみろ」
「何書いてあんのか知らねぇけど、この世界の文字で書かれてたら読めるわけが……」
《ステータス》
名前 :白桐望太 潜在職:道化師
筋力:D 魔力:S
回復:C 耐久:D
感知:A 敏捷:A
回避:S 幸運:C
知力:A 器用:SSS
《魔術》
おいおい、読めちゃったよ。何か知らん文字の意味が頭の中に直接入ってくる感じだけど。
これってあれかな。異世界人補正というやつ?
便利だから何も反論はないが、この《潜在職》っていうのは何だろうか。何だかちょっと不愉快な三文字が刻まれているのだが……。
誰が道化だ、俺はピエロじゃねぇ! なりたくもねぇ!
いや、それよりもこの《外道魔術》って。外道って言葉酷くね?
人の道から外れることを言うんじゃなかったけっか? 他にも本筋とは別の道とか、仏道(内道)とは逆にある存在とかあったっけ?
意味は分かっても、どんな魔術なのかサッパリだ。
「その《調ベルト》は、身体に巻いた者のステータスを表記した紙を出してくれるというわけじゃ」
なるほど。しかし作った奴はどうかしてる。完全にダジャレじゃねぇか。
それにしてもステータスか。まるでゲームみたいだ。
「しかし……じゃ」
爺さんが少し深刻そうな声音を響かせたので、俺は彼を思わず見てしまう。
「よもや異世界人とはいえ一介の人間に《外道魔術》が宿るとはのう……」
「……よく分かんねぇけど、この《外道魔術》ってのが使えるってことだよな?」
文字から想像してもどのような魔術なのかサッパリだけど。使えるものなら嬉しいが。
「……ううむぅ」
「いやぁ、唸ってないで教えてほしいんだけど……」
「おっと、すまんな。その《外道魔術》を教える前に、そもそも魔術というのがどのようなものなのか、お主は理解しておるのか?」
「いいや。俺がいた世界にはなかったし」
「ふむ。ならばまずは魔術の概念を知らねばな」
「確かに爺さんの言う通りだな」
「物分かりが良いのう」
「生兵法は怪我のもとって言うだろ。それに基本も分からねぇのに、不気味な力なんて使いたくないぞ」
暴走して死ぬとか絶対勘弁だ。
「……普通の人間なら見たこともない力に胸躍り、さっそく使おうとするもんじゃがな」
「よそはよそ、うちはうち」
母親にもよく言われたなぁ、この言葉。石橋は叩きながら渡らないとね。これが長生きの秘訣。
「なるほどのう。いや、慎重なのは良いことじゃ。しかし、この器用がSSSもあるのは珍しいのう。というか人間でSSSランクを持っとる者などおったんじゃな。それに知力も高い。まあ一見してそうは見えんがのう」
「ほっとけ。どうせ見た目はいつも頭悪そうって言われるよ! つうかSSSってそんなに高いのか?」
「格段に、のう。筋力がCもあれば一級の兵士になれるほどじゃ」
くそぉ、俺はDか。兵士にすらなれないとは……。まあ別にいいけど。
爺さん曰く、一般的な兵士は平均してステータスランクはCくらいだという。最低ランクがEで、最高ランクはSSSらしい。
おお、俺の器用さは最早神がかってるってことだな!
「異世界人とやらは総じて強いステータスを持つというが、お主も例外ではなかったみたいじゃのう」
無理矢理親友たちに巻き込まれた形だったので、神が情けをくれたのかもしれない。ありがとう神よー!
「ただ見事に極端なステータスではあるがのう。その分お主の戦術がこれで立てやすいのも確か。ふむ、《潜在職》が『道化師』というのも面白いのう。あまり見ないものじゃ」
彼が言うには《潜在職》というのは、その人物の特性に合った職業を、この世界の職業に当て嵌めて表示したものだという。
うん、まあ……自宅警備員とかじゃなくて良かったけど。
あれ? そんなことよりさっきから静かだな……って、寝てるし。
さっきから声がしないと思ったら、カヤちゃんが空中に浮きながらスヤスヤと居眠りをしていた。……幽霊って寝るんだなぁ。
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