第3話 異世界召喚
視界が開けたと思ったら、一面いっぱいに一本の大樹が目に飛び込んできた。
――何だ、この樹は?
半ば呆然と立ち尽くす形で、見上げるほどデカイ樹を見つめる。そのまま視線を下へと移す。
先程まで経っていた地面の上ではない。
大理石で作られたような台座の上に、魔法陣が描かれている。その上に俺……いや、俺たち三人は立っていた。
周りは草花で敷き詰められていて、自然が豊かな土地だということは分かる。
……異世界、ってわけか。
まだ確証ではないが、おおよその予想は当たっているように感じる。
「――あ、あの!」
不意に背後から聞こえた声に振り向く。
思わず怪訝な表情を向けてしまうほど、そこにいた人物の風貌は異常だった。
まるでどこぞの王国の姫のような艶やかな水色のドレス姿。それにテレビですら観たことのない緑髪の少女。そんな彼女が日本語として聞こえる言葉を話してきたので、思わず思考がストップしてしまった。
「えっと……君は?」
そう尋ねたのは、左隣に立つ京夜だ。
「も、申し訳ございません! あなた方を召喚させて頂いた【ファイルーン王国】第一王女のアメリア・グリム・アルクエイド・ファイルーンです!」
ふぅん、明らかに日本人じゃねぇし、話してる言葉も日本語じゃねぇな。
まるで洋画の吹き替えを見ているような感じで、日本語を発声する時の口の開き方と言葉が合致していない。
それでも日本語として聞こえるということは、何からの力が働いているからだと推察させる。
つうか、こういう召喚ものってのは王女ってのが相場だけど、本当にそうなんだなぁ。
「混乱されていることかと思いますが、ご説明させて頂きますので、どうかこちらへ」
そう言って、彼女が台座を下りるように指示してくる。
「……どうすんのよ、望太?」
「何で俺に聞くんだ?」
右隣に立っている織花が選択を投げつけてくる。かくいう京夜も縋るような目線ではあるが。
二人にはここへ来る前に異世界召喚だという話題を振っておいたから、現状をある程度理解できているのだろう。
それでもこういうことに免疫がないせいか、判断を俺に委ねてくる。
つうか二人とも、俺だってこういうことは初めてだってこと分かってんのか?
そういう妄想だってしたことあるし、知識だけはあるが、当然現実に異世界へ召喚されたことなどない。だから俺だって内心ではドキドキものなのだ。
それよりもコイツら、俺を巻き込んだくせに平然としてやがる。大物過ぎじゃね? 謝罪くらいしろよな……ったく。まあ、もう謝られたところでどうしようもねぇから別にいいけど。
「とにかく話を聞かんことには、なぁ。こうして突っ立ってても現状が良くなる様子もねぇし」
「そう、よね」
「分かった。望太がそう言うなら」
おいこら、お前らには主張ってもんがねぇのかよ。俺の選択が間違ってても文句言うなよ。いや、本当に頼むよ。特に織花。
そう思いつつ、台座から地上に伸びている短い階段を下りていく。
下で待っていた王女の周りには兵士が数人ほど護衛なのか立っており、険しい顔つきで俺たちを見つめている。
異世界人の俺たちを警戒……か。ま、当然だわな。
自分たちで呼んでおいて、とも思うが、自分たちとは違う世界の存在なのだから警戒するのも当然だろう。
だから織花、頼むから手に持っている竹刀を強く握りながら戦う意欲とか出してくれるなよ。
召喚する時にカバンなどは全員手放してしまったが、織花は竹刀だけはしっかり握っていたから一緒にこっちへやってきたのだろう。さすがは剣道に青春している女子である。
台座がある周囲は、水路で囲まれていて四つ角には石柱が立てられていた。真っ直ぐ伸びた石畳の先には、灰色の巨城の後ろ姿が確認できる。
つまりこの台座があるのは城の背後だということだ。
裏口、というより裏門から中へと誘導されて入る。
さすがは城というべきか、天井も高いし通路も広い。壁には高そうな絵が飾られていたり、割って弁償させられると泣きを見そうな壺なども確認できた。
またメイドらしき服装をした女性も働いている。
ん~リアルメイドかぁ。……いいな。
是非俺専属とかいたらもっといい。ご主人様権力でいろいろできちゃうのに。
ネコミミカチューシャとかつけて撮影会とかたまんないよな、きっと。誰か一人でも可愛いこを譲ってはくれんものか……。
ああいかんいかん。そんな煩悩塗れの妄想してる場合じゃない。……ん?
隣を見るとド緊張しながら歩いている京夜がいる。
そういやコイツ、基本的に何でもできるけど変に上がり症だったっけ。まあ、でもそれが可愛いって女子には絶賛だったけど。……くそぉ、やっぱり顔か。イケメンは得だとでもいうのか!
おっといかんいかん、また思考が滾ってしまった。今は情報収集に努めなければ。
それにしても……。
今度は織花を見てみるが、こっちは一切の緊張を感じさせずに平然と歩いている。
きっとコイツはな~んにも考えてねぇんだろうなぁ。
「……ん? 何よ?」
「別に。お前はいつも通りだなって思ってよ」
「は? …………どういうことよ?」
「こういう場合、もう少ししおらしくなった方が可愛げがあるんじゃねぇかと思ってな」
「しおらしいアタシを見たいの?」
「……いや、よく考えたらそんなお前は気持ちが悪ぐふっ」
脇腹に肘を入れられてしまった。ちょっと言い過ぎてしまったようだ。
それ以上言うと殺すわよ的な視線をぶつけてくる織花だが、「ちょっと止めなよ」と止めに入ってくる京夜。
「アタシ悪くないわよ。だってこのバカが」
「バカって言う方がバカなんです」
「な、何よ、バカって言う方がバカなんですって言う方がバカなのよ!」
「ちょっ、喧嘩は良くないって!」
まるで子供の言い合い。それをあたふたしながら怒りのボルテージを上げる織花を中心に宥める京夜。
「――ふふふ」
そこへ前方から笑い声が聞こえた。――王女だ。
俺を含めた三人が彼女に意識を向ける。
「あ、申し訳ございません。何だか仲が良いなと思いまして」
「すみません、王女様。二人が……」
京夜が恐縮するように言う。
「あ、いえ。その……私も突然笑ってしまって」
「いいえ。気にしないでください。王女様が楽しまれたのならこちらも嬉しいですから」
「そ、そうですか? ……ありがとうございます」
……ほらきたきた。異世界の王女様、頬が真っ赤ですよ。
ニッコリ微笑み王子スマイル・イケメンの術中にまんまとハマりやがって! まあ、当人はそんなつもりは毛頭ねぇだろうけども。
この自然の笑顔で何度女性が落ちていったことか……。
でもまあ、京夜にさっきまでの緊張し切った表情がなくなっているので一応良しとしよう。
恥ずかしそうに顔を背けた王女が、「ち、近道にこの部屋を通過しますね!」と言って、一つの部屋の扉を開けて中に入っていく。
俺たちも黙って同行し進んで行った。
部屋内はちょっと奇妙な造りになっており、腰より少し高めの円柱状の石が幾つも立てられてあって、上部面に魔法陣が刻まれている。
俺は興味をそそられて、描かれている魔法陣にそっと触れながら、
「あのさ、この魔法陣って……っ」
と尋ねようとした時、その魔法陣が輝き出す。
――へ?
同時に視界が真っ白に染め上がり、俺は――城から姿を消してしまった。
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