第8話 高校入試は四則演算!?

1+1=2、3×5=15。15歳。中学校3年生になって私が受けた私立加茂暁星高校(以下、加茂暁星)の入試問題は前述した計算の類でテストペーパーの半分が埋め尽くされていました。

「流石にそれはないだろう」「高校入試を馬鹿にするな」

人はそう言うでしょう。しかし、私が受験した加茂暁星は偏差値40の私立高校です。私の住んでいる地域では最もレベルが低い高校として知られていました。私自身、四則演算はないだろうと思って中学校の数学を調べてみました。そうしたら中学校1年生の単元に「正の数・負の数の計算」という単元がありました。これはつまり

・(+6)+(+3)=+(6+3)=+9

・(-5)+(-3)=-(5+3)=-8

 これらのような計算のことです。当たり前のことではありますが方式さえ頭に入っていれば四則演算と同じようにスラスラ解けます。これらのような問題が高校入試で出題されていたのです。しかも、100点満点中50点分も・・。あとの50点分も今にして思えば他の単元の基礎的な問題しか出題されていなかった記憶があります。

また、英語のテストもひどいものでした。数学が中学校1年生レベルの問題であるならば英語もまた然りです。

・My name ( ) Taro.

・This ( ) a pen.

 このような頭の良い読者からしたら舐めているのかと憤慨するような問題が多数出題されていました。ここに公立高校や難関私立高校しか受験したことがない人にはわからない現実があります。国語はどうだったのだと疑問に思われる方もいるかもしれませんがよく覚えていません。前述した数学、英語の入試問題と比べると衝撃的な問題ではなかったのだと思います。しかし、この高校を運営している学校法人は私が卒業した後に大学入試の現代文で衝撃的な珍事を起こしました。当時のニュース記事を引用してみましょう。

・前代未聞。今度は大学の入試問題に。「ホームレス中学生」

「ホームレス中学生」の勢いが止まらない。漫才コンビ・麒麟の田村裕(28)の自伝的小説であるこの「ホームレス中学生」。これまでに、漫画化、映画化、ドラマ化、舞台化、海外進出など、つぎつぎと新たな展開が決まり、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

そんな「ホームレス中学生」が、今度は大学の国語の入試問題として出題されていたことが明らかになった。もはやタレント本ではなく、文芸作品の域に達したか?

「ホームレス中学生」を入試問題に採用したのは、新潟県加茂市の新潟経営大学。

出題されたのは、先月24日に行われた同大学経営情報学部の国語試験。約1万字におよぶ「ホームレス中学生」の本文から要点を記述させたり筆者の意図を読み取らせるなど、合計6題を出題した。

いわゆる「タレント本」が大学の入試問題に採用されるのは、異例のことで、これまでにもあまり例がないという。

新潟経営大学は「ホームレス中学生」を入試問題として採用した理由について

「具体的な文章表現や作品に流れる倫理感などがすばらしかった。入試問題としてまったく遜色ない」とコメントしているという。(2008年2月24日Tech insightニュースより)

 考えられるでしょうか。最高学府である大学がお笑い芸人が書いた本を入試問題として出題したのです。引用記事の当時の担当者の話によると入試問題として謙遜ないと記載がありましたがホームレス中学生といえば当時話題になった本です。受験生も手にとって読んでいるかもしれません。もし、ホームレス中学生を手にとっている受験生がいればその受験生が圧倒的に有利になります。そのような考えも及ばない大学関係者がいる時点で私だったら受験する気すらなくなります。この同学校法人の新潟経営大学。私が在学していた偏差値40の系列高校にいた生徒からも馬鹿にされる大学でした。新潟経営大学の住所に希望が丘という地名が入っているのですが新潟の片田舎の山頂にあるといったことから絶望ヶ丘にある大学と同級生の間では揶揄されていました。また、今になってこの大学の偏差値が気になっていたので調べてみました。

・代々木ゼミナール偏差値

新潟経営・経営情報前期[2]35

経営情報[2]35

スポーツマネジメ[2]35

・河合塾偏差値

新潟経営大学

経営情報前期

偏差値=BF

スポーツマネ前期

偏差値=BF

 なんということでしょう。代々木ゼミナールでは全ての入試において偏差値が35。河合塾に至っては偏差値がBF(測定不能)との結果がでました。BFとはボーダーフリーの略称で、香川大学教育開発センター葛城准教授は、ボーダーフリーを

「受験すれば必ず合格するような大学、すなわち、事実上の全入状態にある大学」

 と定義しています。また、これらの大学の惨状の調査をし、次のような光景が日常的に行われていることを報告しています。

「授業中にオ◯ニーしてろ!と叫んだ人がいた」

「授業中に大きな声で卑猥な話を楽しそうにしている」

「先生に対して知るか。死ね。という暴言を吐いていた」

 開いた口が塞がらない読者もいるのではないでしょうか。私が通っていた高校の惨状もこれに近いものがありました。これが低偏差値大学、高校の現実です。

 話を高校入試に戻します。通常の公立高校入試では国語・数学・理科・社会・英語といった5教科入試を行いますが私立高校の入試、とりわけ私が受験した加茂暁星では国語・数学・英語の3教科入試で済んでいたのです。これが難関私立高校になると、どの教科でも高度な問題が出題され高得点が要求されることでしょう。しかし、私の母校では前述した中学校1年生レベルの問題でも実感値的に40点以上取れば合格できるような形でした。そこで何とか高校に入るチャンスを得た私は加茂暁星に入学することにしたのです。私の学歴コンプレックスを語っていく上でこのような教育的バックグラウンドを持っていることを覚えておいてください。

 また、母校の名誉のために言っておきますが現在の加茂暁星は新潟県内唯一の5年一貫看護師養成課程である看護科(高校3年間+2年の専門課程で正看護師の資格が取得できる)を柱として普通科においても新潟県魅力ある私立高校づくり支援事業に採択され、国際人材の育成にも力を入れています。偏差値40の高校において英検2級を取得している生徒も出てきており、言うならば学力が低い生徒でも基礎学力を構築させ、大学や社会に送り出す土壌は備わった高校になったと考えています。加茂暁星と同様に新潟経営大学においても実学教育に力を入れ、日商簿記検定1級や税理士試験の科目に合格する学生を出す等の実績を残しています。私は加茂暁星に在学中も楽しく過ごせており、加茂暁星や新潟経営大学を恨んでいるわけではないことをここに付け加えて置きます。

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