ブラックベリーの独白(Blackberry's Monologue)
もう、みんなアタシが誰だか分かっているのだ。本当に
心底、ブラックベリーは後悔した。こんなオフ会に参加などしなければ良かったのだと。
『自然豊かで穫れたて農園のベリー類を食べながら、「ミックスベリー」の仲間で語り合いませんか』
そんな甘い
オフ会を主催した『ストロベリー』に一言言ってやりたい。こんな殺人犯が一緒かもしれない閉鎖空間で、何日かも知れない間一緒に過ごせと。冗談じゃない、どうしてくれるのだ、と。しかしながら、その主催者が死んでしまった。
実のところアタシは『ストロベリー』のことが気になっていた。『ストロベリー』は明からさまに男とは名乗っていなかったが、女であるとも言っていない以上、おそらく男ではないかと睨みをきかせていた。もし男だとしたら、SNSのやり取りからしてとても気が利く青年だろう。そしてそういう男性は、性格がルックスに反映されており、いい男に決まっている。さらに得てして、お金も持っているものだ、と考えている。アタシはそういう男に惹かれる。しかし、現実の世界で、アタシによってくるのは金のないチャラい男どもばかりだ。お金持ちとイケメンには興味はあるがギャル男や貧乏な男には興味はない。
そして、このオフ会に来て、食事会までの間、男性陣を
対抗馬と思われる女性陣は、どういうわけだか美人揃いだった。これが、ベリー類をたくさん食べているだろう彼女らにもたらされた、アントシアニンの効果なのだろうか。そんな風にさえ感じられた。どうせ彼女らもこのイケメンを狙っているのだろう。確かに美人が多いが、アタシ自身も自分のルックスにはそれなりの自負があった。多少メイクは派手に見えるかも知れないが、スッピンにだって自信はある。決して彼女たちに劣っているとは思えない。しかも、男を
ところが、その
しかしさらなる追い打ちがアタシを苦しめた。吊り橋が故意に落とされたのかも知れない。事故死ではなくて他殺かも知れない。ハンドルネームを明かしてはならない、など。
自称医者で、ちょっと顔が良いからっていい気になっている『ハックルベリー』は、馬鹿なことに皆の前で自分の本名とハンドルネームを一致させてしまった。しかしアタシは、SNS上で普段から取っている言動で、『ブラックベリー』だってきっとみんな分かっているのだ。この喋り口調の者は他にはいない。もしこれで『ブラックベリー』が『ミホ』と名乗るあの地味な女だったら、それこそ凄い演技力だろうと感嘆するところだ。しかし、まったくもってそんなことはない。これではあまりにアンフェアだ。
今にも逃げ出したい気分だが、そんなことはできない。しかも、下手に逃げたら犯人だと思われかねない。
こんな事態になったのも、きっと『ラズベリー』のせいだ。さっきは、『メグ』と称する女に、敢えて自分が犯人だと宣言するようなカモフラージュなんてするのか、みたいなことを言われたが、そう思わせることこそが犯人の狙いだ。つまり『ラズベリー』が犯人だ。『ラズベリー』が『ストロベリー』の完成されたルックスを妬んで犯行に及んだのだ。つまり『ラズベリー』は男の誰かだ。
そうしたら、腹いせに『ラズベリー』が誰なのか、暴いてやりたい。暴いて、力の限り罵倒してやりたい。警察に逮捕される前に、『ラズベリー』を
アタシは『ラズベリー』をきっと見つけ出し自白させてやる。使命感に燃えていた。
と言いながらも、アタシは午後八時四十分に必ず入浴するようにしている。これだけは譲れない。習慣は大切だ。アタシは見た目によらず意外とデリケートなのだ。入浴してしっかり一日の疲れを落としてから、『ラズベリー』の照合作業に取りかかろう。そんなことをアタシは考えていた。
湯船に浸かりながらアタシは黙考した。アタシと『ストロベリー』を除く十名の候補者の中から『ラズベリー』を選別できるのか。
まさしく暗中模索だったが、アタシは今日ここに来てからの光景をできる限り思い出してみた。
その数字とは『1510』。これだけではさっぱり分からないが、ある物体に印記されていたことでその意味をなすのだ。
それはあの男が持っていた鍵だ。
そうだ、アイツに違いない。アタシは確信した。
すぐにアタシは浴室を出て身体を拭き、ドライヤーで明るく染まった髪を乾かした。待っていろ、あんたを問い詰めてやる。心の中でアタシはそう呟いて意気込んだ。
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ブラックベリー(Blackberry)
キイチゴ属に含まれる。セイヨウヤブイチゴと400近くもあるその栽培品種の総称で、ヨーロッパや北アメリカではよく知られている。花期は六〜七月で、花の色は白からピンク。ジャムにすることが多いが、ジュースにしても暗赤色で酸味があり、美味である。なお、クロイチゴ、ブラックラズベリーはいずれもラズベリーであり、ブラックベリーには含まれない。
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