それぞれのドナドナ

 最近たまたま二人のドナドナに遭遇した。


 一人は、長年乗っていたビッグバイクを手離すドナドナ。


 彼は、ここ3年そのバイクに乗っていなくて、いつか手間とお金をかけてレストアしようと考えていたが、生活や仕事の状況がそれを許さず、ついに手離すことを決意したのだという。事実上、バイクライフの休止である。


 バイクが置いてある彼の実家までバイクを引き取りに行くと、お母様はかなり嬉しそうな様子で(これはこれで複雑な気分だ)、バイクだけでなく、家の裏に放置してあったバイク関係のアレコレも持ってきた。


 その中に、彼が初めて買ったであろうヘルメットを、お母様がニコニコしながらゴミ袋に入れて持ってきたときはつい彼も、

「ヘルメットは渡さねぇんだよ、ヘルメットは!」

と怒鳴ってしまっていた。

 確かに中古のヘルメットは売りづらいし、捨てづらい。というか、そのヘルメットには思い出が詰まっているのだと思う。


 もう一人は、バイクはもうやらない、と一大決心して買い換えた自家用車だが、若干バイクに未練があったのか、バイクを積めそうなステップワゴンに乗っていた。

 けれども、やっぱりバイクをやる(バイクをやる、というのは、バイクライフをスタートする、という意味だ)、と考え直し、人生を考え直すきっかけだったステップワゴンを売り払い、中古のハイエースに買い換えた、というドナドナ。


 念願の、というか、久々に再びハイエースに乗り始めたときは、懐かしい思いとともに、バイクをやらないと決めたあれこれの思い出をステップワゴンに馳せたという。


 さよなら、バイクライフ。


 ようこそ、バイクライフ。


 バイクに乗れる人生は今しかないのかもしれないし、バイクは逃げないのだからいつでも乗れるのかもしれないし。


 そんなことを思ったドナドナであった。

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