第13話 聖属性
ダリス大峡谷に向かうことが決まったセイヤとユアであったが、問題が二つあった。
一つはダリス大峡谷に行くにしても、セイヤは『闇震』により魔力をほとんど使っていたため、残りの魔力がゼロに近い。
二つ目はセイヤは現在地を詳しく知らず、ここがどこにあり、ダリス大峡谷がどっちにあるのかを知らない。
そのことをユアに言ってみたところ、ユアは大丈夫の一言だった。
「なあユア、大丈夫ってどういうことだ?」
「セイヤの魔力は私が戻す……ダリス大峡谷はあっち……。捕まっている間に地図を見ていたから問題ない……」
「おいおい、戻すって……つか、なんで地図を見られるんだよ?」
「看守をずーっと見てたいら地図をくれた。これでも見ていろ、って」
あぁ~看守さんその気持ちわかりますよ。こんな子にずっと見られていたらやばいですよね~。このときセイヤは看守に同情をするのであったが、その看守に届いたかは知らない。
そしてもう一つの問題であるセイヤの魔力を回復させるということだが、常識的にそんなことはできない。
魔力というのは魔法師の力の源であり、言うのであればスタミナと一緒である。
回復するには食事や休息、睡眠などが必要で、魔法で戻すことなど不可能。唯一聖教会にいた女神様ができたと言われているくらいだ。
ユアはそんなことを考えていたセイヤに向かって、問答無用で魔法を行使する。
「『
次の瞬間、セイヤの全身は白い光に包まれた。そして同時に、セイヤは自分の中から魔力がどんどんにじみ出るのを感じ、あっという間にセイヤの魔力は全回復してしまう。
「ユア、今のなんだ? 『
自分の知識にない光属性魔法に驚くセイヤ。落ちこぼれ魔法師だったセイヤはいつか使えると信じて、光属性の魔法については固有魔法まで含めてすべて暗記している。
けれども、今ユアが使った魔法をセイヤは知らない。
「光属性の魔法じゃない……今のは聖属性の魔法……」
「聖属性だと……」
聖属性という言葉にセイヤは言葉を失う。
なぜなら、聖属性こそが聖教会にいた女神様の使う魔法属性であり、聖教会の聖の字は女神様の使う聖属性からとったものであったから。
聖属性魔法はかなり珍しいでは表現できないほどの魔法である。聖属性魔法の使い手は百年に一人と言われ、その百年に一人の逸材が聖教会の女神となるのだ。
もしユアが聖属性魔法を使えることが聖教会に知られた場合、ユアはすぐに新たな女神となり、人々から崇拝されるだろう。
それくらい聖属性魔法は貴重な属性なのだ。
魔法には全部で三種類存在する。基本魔法、派生魔法、複合魔法の三つ。
通常、すべての魔法は基本魔法、派生魔法、複合魔法という三つの種類の魔法に分けられる。
基本魔法とは、火、水、風、光の四属性の魔法のことを指す。
例えば、『
では、派生魔法とは何かというと、それは言葉の通り基本属性から派生した魔法のことである。
具体的には氷属性や炎属性がわかりやすい。氷属性は水属性から派生した属性の魔法であり、炎属性は火属性から派生した魔法である。
派生した魔法属性にも特殊効果が存在するが、その特殊効果は基本的には派生前の属性の特殊効果を引き継ぐ。
つまり氷属性は「沈静化」、炎属性は「活性化」だ。中にはもちろん例外があるが、基本的にはこの常識が通用する。
複合魔法というのはその名のとおり複数の魔法を合わせた魔法であり、具体例はセイヤの『闇震』を無詠唱で行使したことが近いだろう。
行使のタイミングは微妙に違うが、セイヤの先ほどの魔法は『闇震』と『闇波』の複合魔法と言っても問題はない。
しかしユアの使った聖属性はこの派生に関する概念にも複合という概念にも唯一当てはまらない例外だった。
聖属性魔法は分類上、光属性魔法の上位種になっているが、光属性魔法を使う魔法師は聖属性魔法を使えるようにはなることは決してない。
つまり聖属性は光属性でありながら、光属性ではないということだ。
もちろん聖属性魔法にも特殊効果があり、その名は『発生』という。
これは対象を発生させる効果であるが、どちらかというと、生成という言葉に近い。聖属性の魔法は武器や魔力を無から生成することができる特別な力なのだ。
実はユアがセイヤの闇属性を防いだ理由は光属性で拮抗させたのではなく、聖属性で闇属性を消し飛ばしたからであった。
闇属性は基本魔法に分類され、聖属性は派生魔法に分類される。基本魔法と派生魔法では、派生魔法のほうが強力であるため、最初から勝負にならない。
聖教会にいた女神様は、発生で魔力を生み出すと同時に光属性魔法を使い上昇させて魔力を超回復させることができたと言われているが、ユアがさっきやったのも同じものである。
セイヤはユアによって魔力を全回復した。
「すごいな、ユア」
「セイヤこれでダリス大峡谷に行ける……」
「まあそうなるな。ところでなんで聖属性が使えるのかといっても無駄なんだろ?」
「なんか昔から使える……理由はわからない……」
「そうか」
昔から使えたのに聖教会に知られていないということは、おそらくユアの父親が関わっているのだろうとセイヤは考える。一体ユアの父親は何者なのか。
「セイヤ早く行こう……」
考え事をしていたセイヤの手をユアが引っ張る。
「そうだな」
この時セイヤは頭の中でユアの母親がもしかしたら女神じゃないかと考えていた。
女神の娘なら聖属性魔法を使える理由も理解できる。そして何よりユアの父親が聖教会の人間だったら、闇属性のことを知っていてもおかしくはない。
女神が消えた時期とユアの年を考えれば、完全に否定することはできない。同時に、そのことを隠せるユアの父親に恐怖を覚えるセイヤ。
そんなことを考えながら、セイヤはユアとともに歩き出し、ダリス大峡谷を目指すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます